巡り合わせは人の目には読み解けない、その現実を突きつけられます
- ★★★ Excellent!!!
それぞれに生活に難渋して苦労と裏心を持つ二人の兄弟と、同じ里に生まれて二人の男性とそれぞれに関わりを持った一人の女性。彼らと彼女が暮らす里に、薬屋「りん」が訪れます。
「りん」は所謂「正義の味方」ではありません。主の命に従っていること、そして、主が人ではなく上位の存在であること。そんな「りん」が主の命を優先させたとなれば……
人は、富どころか、命すら軽いものになります。運命に翻弄される人間の姿が読者の心を揺さぶります。
かつて、自然を人間の手により作り替えるなど叶わなかった、「人新世」など夢物語であった時代に、人間が生きるとは野山の獣が餌を得ることと大差ありませんでした。かろうじて、服を着ていたことと、会話をして先人の物語を後世に伝えられた程度で。その厳しさは現代人の想像を絶していました。本作を読んだ読者は、そのような現実を突きつけられます。
しかし運命にもてあそばれる姿は現代人も変わらないかもしれません。いや、変わらないと断言できるのです。あの会社に就職していれば…… あの女性と結ばれていれば…… 現代の人間も繰り言を呟き、運命を変えられないのです。
人の哀れさを直視しませんか。