抜きゲーに出てくるスケベスキルしかない俺の異世界放浪

@toka775

第1話

俺はナギト。28歳、男。会社員をしていた者だ。

平凡な一般職、それが私だ。特に出世欲もないし、毎日を惰性で過ごしている。


だが、そんな俺にも趣味はある。


それは、大人向けゲームをすることだ。


ただし、俺はストーリーの重厚さや世界観にはあまり興味がない。求めるのはただ一つ――性欲の発散だ。だから、掲示板やSNSで「泣きゲー」だの「神シナリオ」だの熱弁しているガチ勢とは話が噛み合わない。


俺にとって重要なのは、「抜けるか抜けないか」ただそれだけ。いわゆる抜きゲー、それをすることが私の日課になっていた。


今の生活に不満がないといえば嘘になる。仕事は退屈だし、上司の小言も鬱陶しい。

けれど、仕事を終えて、家に帰り、ソファに腰を下ろしてゲームを起動する。その繰り返しの安心感は嫌いになれなかった。


今日も同じように帰宅し、PCを机に置いて起動する。まずは一大ダウンロードサイト「INSサイト」をチェックするのが習慣だ。


「おっ、『雪の淫女』の続編出てるじゃん。はよ買お。」


思わず独り言が漏れる。画面には、妖艶なヒロインの新規立ち絵が映っていて、期待に胸が高鳴った。

そのままソファに深く腰を沈め、ダウンロードボタンをクリックしようとした――その瞬間だった。

唐突に、視界が白く染まった。


「……え?」


頭の奥がじんじんと揺れ、重力の感覚すら曖昧になっていく。さっきまでいたはずの狭い部屋が、音もなく溶け崩れるように消えていった。


代わりに広がったのは、どこまでも続く光の空間。上下左右の境界すら分からない。まるで夢の中に放り込まれたかのようだ。


「やあ」


不意に声がした。背後から。

慌てて振り返る。そこに立っていたのは――神、としか言いようのない存在だった。


金色の髪は陽光そのもののように輝き、瞳は溶けた黄金を思わせる深い光を湛えている。だが、その姿は人間の常識からすれば奇妙だった。

背丈は小学生ほど。純白のワンピースのような衣を纏い、首には意味深な装飾のチョーカー。まるでコスプレイベントに出てきそうな幼い少女の姿だ。


しかし、その小さな体から放たれる圧は異様だった。息をするだけで胸が押し潰されそうになる。全身を氷水に沈められたかのような緊張感。俺の脳は「ただの少女」だと理解しながら、心臓は

「この存在は人智を超えている」

と悲鳴を上げていた。

その存在は、にこりと微笑む。だがその笑顔には、遊び半分の無邪気さと、全てを見透かす威厳が同居していた。


「君こういう子が趣味なのか..。へぇ。

いや、本題に入るか。」


目の前の少女は自分の姿をニヤニヤと見ながらぶつぶつと何か言っている。


私の方を見ると

神は淡々と告げた。


「お前は異世界に行き、世界を救ってもらう。善悪は問わない。ただお前なりのやり方で救ってみろ。」


空気が震えたように感じた。

その言葉は重々しく、命令にも似ていたが、俺は正直――気が進まなかった。


世界を救う?


そんな大それたことに興味はない。

会社はブラックじゃないし、給料も最低限はある。帰ってきてPCを立ち上げ、ダウンロードサイトで買った大人向けゲームを遊ぶ。そうやってストレスを散らす日常に、致命的な不満なんてない。


むしろ異世界に行ってゲームができなくなるほうが、俺にとってはよほど深刻な問題だった。


「……いや、その……異世界って、帰ってこれるんですか? ネット環境あるんですか?というか... 」


思わず真剣に聞いてしまった。

神は一瞬、目を細めたように見えた。表情は曖昧なのに、不思議とこちらの心を読まれているのが分かる。神はこちらの言葉を遮る。


「それ以上は言わなくていい。世界を救うことが出来れば帰す。二つ目の問の答えだが、異世界にパソコンもネットもない。いわゆる中世ファンタジーという奴だ。


そして、お前は行きたくないんだよな、異世界。」


声に含まれるのは失望ではなく、むしろ愉快そうな響き。

そして神は、ためらいなく本音を吐いた。


「変に疑われるよりはマシだろうから、包み隠さずお前を選んだ訳を話そう。」


一拍置いて――


「私の暇つぶし(おもちゃ)になって欲しいからだ。」


その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

崇高な使命も、大義名分もなく、ただ「暇つぶし」。


言葉の響きがいやに軽く、しかし抗いようのない力を帯びて私を縛る。

俺は、神の前でどう答えるべきか迷った。


俺は思わず断ろうと口を開くが、またも神は俺の発言を遮る。


「バカじゃないなら分かると思うが――」


神は軽く笑いながら、指先を掲げた。

次の瞬間、視界の端で巨大な影が現れる。黒々とした鱗を持つドラゴン。ホログラムではなく紛れもない実体を持った本物。口を開け、炎を吐き出そうとしたその瞬間――


「ほら、こうだ」


神が指を軽く鳴らす。

――パチン。

ドラゴンは一瞬で霧のように消えた。

残ったのは、ほんのわずかな風と、鼻腔に漂う焼け焦げた匂いだけ。


「人間、どころかドラゴン、魔王だってこんなもんだ。指パッチンで終わり♡」


神は飄々とした調子で肩をすくめる。


「だから反抗は無駄だぞ。駄々をこねるなよな。めんどくさい。」


その声音には苛立ちも怒りもなく、ただ“退屈な遊びに水を差された”程度の響きがある。

――だからこそ、余計に恐ろしい。

俺は喉が渇き、声が出なかった。

胸の奥で小さな反抗心が芽生えかけたが、すぐに押しつぶされた。

力の差は絶望的。選択肢なんて、最初から存在していない。

「……分かりました。行きますよ、行くしかないんでしょう?」

絞り出すように言うと、神は満足そうに頷いた。

まるでお気に入りのおもちゃを手に入れた子供のように。


「うん、その調子。その素直さがいいんだよ。」


にやりと笑った気がした。


「まあ、冗談は置いておいて――」


神は急に声色を変え、今度は落ち着いた調子で続けた。


「真面目な理由を言うとだな。お前は異世界での生存適正が高いと、私の神通パワーが教えてくれてる。」


そう言って、ない胸を張るようにして顎を上げた。


「……生存適正?」

思わず聞き返しかけた瞬間、

神はすぐさま指を振った。


「あ、適正の詳細は聞くなよ。そこまでは分かんねえんだ。知らない方が楽しめるしね。」


完全に先回りされた。

問いかけようとした言葉が口の中で粉々に砕け、喉に詰まる。


「……」


イラッとする。

すべて見透かされているようで、呼吸まで管理されている気分だ。

わざとじゃないか、と疑いたくなる。

神はそんな私の苛立ちすら楽しんでいるように、にやにやと笑みを浮かべた。


「ほらほら、そういう顔。いいねえ。俺が求めてたのはそのリアクションだよ。」


胸の奥で小さな怒りがくすぶる。

だが、指パッチンひとつで命が消える相手に反抗できるわけがない。


「……っ、クソ……」


結局、唇を噛むことしかできなかった。


「その怒りすら私の予想通りって訳。悔しくないの?」


神は体をゾクゾクとさせ。唇の端を釣り上げる。まるで舞台を観賞する観客のように楽しげだ。天使のような少女が微笑む姿、一見愛らしく見えるが、軽薄な言動が全てを台無しにしている。


「……」


悔しいに決まっている。だが、口にすればまた“全部分かってるよ”と言われるのがオチだ。


「もちろん、生身のまま異世界に放り出す訳ないよな?」


私が警戒するように睨むと、神は肩を揺らして笑った。

「もちーろんよ!」


子供が秘密を打ち明けるみたいに声を弾ませる。


「君が最も好きなものに由来するチートスキルよ!」


……胸の奥がざわついた。

“最も好きなもの”。それは間違いなく、俺の――

「あ、詳細は――」と神が言いかけた瞬間、私は遮った。


「聞かないっす。どうせあなたも知らないし。知りたくないんでしょう。」


一瞬、神の動きが止まった。

その後、嬉しそうに目を細める。


「あら、話のわかる男じゃない♡」


愉悦を隠そうともしないその声色に、またイラッとした。

だが、もうこれ以上言葉で勝てる気はしない。


神がふと空を見上げるように首を傾けた。


「……もう時間みたいだぜ⭐︎」


その瞬間、足元から光の粒が立ちのぼった。

俺の体が細かく分解され、宙に散っていく。

指先、腕、胸、足――次々と粒子となり、光の海に溶け込んでいった。


「ちょっと!まだ聞きたいことが山ほどあるんですが!?」


どこに飛ばされるか、現地民と言語が通じるか、一般常識、政治経済。なんの基本的なことも聞けずに、体は異世界に繰り出される用意を始めてしまった。



「あ、最後に一つだけ伝えておこうか」


神の声が遠くで響く。

私はもう声を出せない。ただ意識だけが浮遊している。


「安心して。私はお前の行動を監視してるけど、どんなことをやらかしても全然Okよ。」


視界は眩しさで埋め尽くされる。

心臓が早鐘のように打ち、全身が消え去ろうとしているのに、神の声音だけははっきり届く。


「あと戦い以外に興味はないから。……うん、ナニしてても見てないから安心してね♡」


メスガキ神は俺を最後までおちょくる。

最後の「ね♡」が、耳にこびりついた。

ふざけているのか、本心なのか。

確かめる前に――私の意識は完全に光に呑まれ、世界は闇に切り替わった。

神はひとり、光の中に取り残される。

光の粒子と共にナギトが消えた空間を眺めながら、口元に薄い笑みを浮かべる。


「……ま、嘘なんですけどね。」


ぽつりと零し、懐から一枚の鏡を取り出す。

鏡面は水面のように波打ち、やがて映し出されたのは――見知らぬ大地に横たわるナギトの姿だった。

「さてさて。私のおもちゃがどんな遊び方をしてくれるのか、楽しみだなぁ♡

ナニからナニまで見せてくれよ。ナギトくん♡」

神の声は楽しげでありながら、どこか底冷えのする響きを帯びていた。


_________________________________________


•神

ナギトへの好感度 +10


•ナギト

神への好感度   −100











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