ヒモニートは楽したい〜異世界でも動きたくないから念力を鍛えます〜

@nojinka

第1話 異世界召喚

「うーん、めんどくさい。」


時刻は昼間、遮光カーテンのおかげで暗い部屋の中アザラシのようにボテっと転が理ながら布団の上でスマホをいじる。

喉が渇いたからお茶を飲みたいんだけど、コップは机の上。

手を伸ばしても届く距離じゃない。


「あー、念力とか使えたらなあ」


厨二病なのでなんとなくコップの方に手をかざしてハッ!と謎の気合いを入れてみる。


スッ


「ん?」


今動かなかった?気のせいかな。

部屋も暗いし見間違いだろう。

生活リズムを治すために普段の睡眠サイクルの就寝時間を過ぎても起き続けた弊害かもしれない。

うん、生活リズムのことは諦めて寝よう。


「と見せかけてハッ!」


勢いよく起き上がり右手を突き出し、それを左手で支えながら気合いを込める。


スッ


うん、やっぱり動いてるね。

どうやら僕の時代がやってきたようだ。


「ハハハ!この力で寝転びながらラーメン作ったり、2階いながら1階の冷蔵庫からジュースを取り出してやる!」


規模が小さいって?

こんな力をひけらかしても研究所送りからの解剖エンドに決まってる。

僕は爪を隠すタイプの鷹なのだ。

それに、まだコップを1cmくらい動かしただけ。

自慢するにしてもダサすぎる。

まだ隠すだけの爪すらない。


「鍛えたらもっと動かせるようになるよな?」


人間の能力は大体なんでも鍛えられる。

つまりこの力も鍛えられるはず!


「ま、それはまた明日にするか」


今はとにかく眠過ぎる。


ドンドンドンドン!

部屋の扉を叩く音がする。


「ちょっと!あんたいつまで寝てんの!フウ!あけなさい!」


五月蝿いのが来た。

仕方なく扉の鍵を開ける。

ガチャリと扉を開くとそこには予想通り幼馴染のアカネがいた。

黒髪黒目のストレートぱっつんヘアに、泣きぼくろが印象的な美少女。

高校の制服姿はかなり様になっている。

容姿端麗、才色兼備、文武両道。

そんな彼女が眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる。


「まだ寝てないんだよ」


「寝てないってあんた徹夜したの?」


「そう、とも言えるかな」


僕の場合夜中起きてるのが通常なんだけどね。


「あんた学校来なさいよ!」


「えなんで?まだ夏休みだろ?」


「バカ!今日始業式でもう始まったわよ!」


「まじか、まだ生活リズム治ってないんだけど」


「明日からは来なさいよ!あとこれ!ちゃんと食べなさいよ」


徐にお弁当が手渡される。


「行けたら行くよ。うん、ありがと」


「来るの!絶対!」


うん、幼馴染というより姉かお母さんだね。

今だって食料を恵んでもらったし。

養ってもらってると言っても過言じゃない。

何を隠そう、例の如く僕の両親は海外出張で家にいないのだ。

めんどくさがりな僕は幼馴染のアカネに甲斐甲斐しく世話を焼かれている。

うん、ヒモだ!

食料のみならず、掃除に洗濯までしてくれるし、たまにお小遣いもくれる。

もうアカネなしじゃ生きていけないよ。


「アカネがいないといけないな」


いやほんとに。アカネがいなかったら天涯孤独のご老人みたいに誰にも気づかれることなくひっそりと息を引き取り、家は事故物件となっているだろう。


「なっ!!いきなり何言いだすのよ!このバカ!学校くらい私がいなくても行きなさいよ。でもしょうがないわね、明日は迎えに来てあげるからちゃんと起きてなさいよ!」


「善処するよ」


「フン!じゃ、私は友達とお茶会があるから帰るわね」


「うん、おやすみ」


「おやす、ってまだお昼よっ!」


そう言いながら彼女は帰って行った。


元気だなあ。見習いたいよ。

今僕にそんな元気はない。

とにかく眠たすぎる。

脳が強制シャットダウンするような感覚。

意識がこの世界から消えていく。


「もう、、だめ、、。」


僕は布団に寝転がり、意識を失った。




「ウアイ!イイアウ!」

「イアイア!ウスアイ!」

「イアスウスア!」


ん?なんだ。周りが騒がしいな。

ゆっくりと目を開ける。


「眩しっ」


徐々に目が慣れていく。

ふむ、ふむ?

うーん。

うん。


「は?」


僕は未開の部族みたいな人たちに囲まれながら祭壇のような場所に寝かされていた。

周りを見渡すと新築の古代遺跡みたいなのとジャングルが目に入る。

ジャングルの木も遠目にみてもかなりでかいし、ここどこ。

古代遺跡みたいなのものも、現代に残っているようなボロボロで風化した姿ではなく当時を再現したCGとかでみるような綺麗さだ。

ピカピカだしさまざまな装飾がなされていて、こだわりと権威を感じる。


それに、この人たちは何者なの?

何人?外国の人だろうけど聞いたこともない言語だ。

骨で作ったであろう首飾りやピアスの装飾品。

身体中の刺青。目元を塗料か何かで黒く塗るメイク。

露出のお多い服にはジャラジャラと金属の装飾品がついている。

一際目立つのは鳥の羽を用いて作ったであろう被り物。

それぞれ派手で個性的だ。


うん、まとめるとここは日本じゃないね。

いや、は!?なんで??

僕おうちにいたよね!?

アカネとバイバイしてすぐお布団で寝たよね!?

なに?拉致されたの!?

そしてここまで運ばれた?

おそらく日本じゃないここまでくるのに一切目が覚めないなんてことある?

麻酔でも打たれていたのかな。

いや、そもそもなぜだよ!

僕は平凡な高校生。まあちょっと怠惰かもしれないけど。

悪いことなんて何もしてない!

まて、冷静になるんだ。

焦っても何も変わらない。いやむしろ状況が悪化するだけだ。

諦めが肝心だ。人生諦めればなんとか生きていけるさ。

諦めればそこで試合は終わってくれるのだ。

つまり焦らなくて済む!

よし、ここがどこかはわからないがまずはこの人たちとコミュニケーションをとって自分がどこにいるのか探ってみよう。

頑張れば変えられるかもしれない。

最悪ネットが繋がるところに行ければなんとかなる!

うん!なんか希望が湧いてきたぞ!


「ハロー?マイネームイズフウ。ハウアーユー?」


話しかけてみた。


「ウイア!」


部族の小さな女の子が返事した。

けど、ほんとに何言ってるかわかんないな。


すると突然少女の手から黒紫色の靄みたいな炎みたいなのが出てきた。


「は?」


そしてそれを手に纏って腕を上げリズムよく手を叩き出した。

一人また一人と周りにいる老若男女が同じことをして踊り出した。


え!なに!?怖いんですけど!

というかこの人たちが手に纏ってるの何!

魔法?魔力?それとも呪術?

明らかなのは多分ここが地球じゃないってこと。

希望を返せ!!

やばいよ、なんか盛り上がってきてるし。

うん、こうなりゃやけくそ。

帰還は諦めて僕も同じように手を叩いて見よう見まねで踊りだす。


「アハハ!」

頭がおかしくなってきた。


「ウスアイ!」

「イスイス!」

「イアイス!」

「アヤヤヤヤヤヤヤヤ!」

「ピューーーー!」

ドンドコドンドコ

ザッ!ザッ!


いろんな音が鳴っている。

楽しくなってきた。







あの部族との出会いと謎の踊りから約一ヶ月。

どうやら僕は彼らに神として受け入れられているようです。

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