恋愛買取業者

ちびまるフォイ

買取業者の太客

「ボーイさん、おはようございますーー」


「あ〇〇ちゃん、出勤したんだ。おはよう。

 いつものあのおじさん今日も来てるよ」


「まじっすか……」


バックヤードのモニターから店内を確認する。

今日も常連のおじさんが店内にいた。


「〇〇ちゃんにガチ恋だね」


「ふたまわりも離れてるんですけど……。

 はあ、キモい。でもやりますよ。仕事だから」


「それでこそガルバのキャストだね」


店内に入ると仕事スイッチを入れる。


「わぁ☆ また来てくれたんですねぇ~~♪」


「ぶひひ。〇〇ちゃんに会いたくて来ちゃったヨ。

 〇〇ちゃんも僕に会いたかったカナ?」


「もちろんです~~!」


これがどれだけ続くのか。

仕事終わりはぐったりと疲れてしまった。


「退勤します。おつかれさまでしたぁ……」


家に到着するとポストには大量のチラシがぶちこまれていた。

水道料金、工事のお知らせ、それに……。



「恋愛……買い取り?」



チラシの1枚には"あなたの恋愛買い取ります"とあった。

もしもあのキモ客の恋愛(笑)を買い取ることができたなら。


おもわずチラシに書かれている番号へ電話をした。


「あの! 広告を見ました!

 どんな恋愛も買い取るって本当ですか!?」


『はいもちろんです。片思い、両思い、忘れたい過去の恋愛。

 なんでも買い取りいたします』


「実は買い取ってほしい恋があるんです!」


買い取りを行った翌日。

ふたたび勤務先のガールズバーへ足を運んだ。


「〇〇ちゃん、おはよう。あの客また来てるよ」


「ええ……? またですか」


「でも今日は変だね。いつもなら〇〇ちゃんを指名するのに。

 今は別のキャストと楽しそうに話してるよ」


「そんなわけ……えっ!?」


モニターを覗き込む。

あの客が別のキャストと談笑している衝撃映像が映っていた。


「あんなに〇〇ちゃんへ入れ込んでいたのに不思議だね」


「あは、あはは。いやまあ、恋愛なんて急に冷めるものですから」


「にしても急転直下すぎない?」


いつかストーカーされるんじゃなかろうかと不安だった日々からも解放だ。

それに買い取りされたぶんの恋愛買取金も手に入った。


「よーーし。もっともっと、恋に落とすぞ!!」


「おっ。〇〇ちゃん今日は仕事やる気だね」


「もちろんです!」


これまではどこか受け身の接客。

あの手この手で自分に興味を持ってもらおうとするおじさんをいなすだけ。


でも恋愛買い取りができるようになってから、

むしろ自分からおじさんを積極的にオトしにいくように接客をする。


これが愛嬌として認識されるのかリピート率はぐんと上がった。

バックヤードではスタッフが売上を見て小踊りしている。


「〇〇ちゃんすごいよ! みんなが〇〇ちゃんの虜だよ!」


「この店をもっと良くするために頑張りたくって」


「なんて健気なんだ! 好きになってしまうよ!」


「ええ~~キャストとスタッフの恋愛はだめですよぉ~~……」


心の中ではさっさと恋を発芽させろと思っていた。

そうすれば買い取りができるようになるから。


それからしばらくすると、色恋営業も板についた。


恋愛買い取りで一気に通帳残高の桁は増え、

買い取られた客は店に来なくなっても自分の人気で客足は絶えない。


けれど、まだまだ足りない。


「ガールズバーだとどうしても限界があるなぁ……。

 客層は固定されるし、仕事中でしか営業はできない。

 もっとゴソっと恋に落とせる方法はないのかなぁ」


自分が接客して恋に落として、それを刈り取る。

どうしても肉体労働の部分が大きい。

もっと効率的にかせぐ方法はないかとSNSを探した。


「これだ! これならもっとたくさんの人を恋に落とせる!」


さっそく自分を飾り立ててカメラの前に立つ。

流行りの曲を流しながら踊ったりする。

たまに雑談配信とかでそれっぽい悩みを語る。


その成果は仕事終わりのスマホが教えてくれた。


「すごい! たくさんのDMが来てる!」


配信活動をはじめるや、それを見た人がアプローチしかけてくる。

その数やガールズバーの比ではない。


あとはそれに気のあるような、ないような返信を続けて恋を芽生えさせる。

自分の専売特許にして特殊技能。


恋愛として燃え上がったら、買取業者に連絡して買い取ってもらう。


恋愛を買い取られたら波が引くように去っていくし、

自分は勝手に興味を失われただけなのでキャリアが傷つかない。


「あははは! もう最っ高!! これで億万長者ね!!」


たくさんの恋愛を生み出し、それを買い取り続けた。




数年後、自分の立てた豪邸には記者がインタビューに来た。



「〇〇さん、ご結婚なされたそうで」


「ええ。耳が早いですね。

 やっと自分のお眼鏡にかなう相手を見つけたんです」


「どんな相手なんですか?」


指パッチンの音に反応して、夫が奥から現れる。

あまりの出来すぎたイケメンに記者もほれぼれする。


「なんて素敵なカッコメンでしょう。

 高身長でイケメン、そのうえ低姿勢で嫌味がない」


「それにあらゆる家事もやってくれます。

 常に妻である私を第一に優先してくれるメンズです」


「すばらしいですね。私もこんな相手がほしいです!」


「そうそう簡単には手に入りませんよ」


「そうでしょうね。こんな人なかなか巡り会えません。

 おふたりはいったいどこでお知り合いに?」


「オーダーメイド・AIロボ研究所ですね」


「へえ、意外です。そういった研究でおふたりは急接近というわけですか」


「いえ。私の理想を叶えるような男性は実在しないことがわかったので、

 オーダーメイドで夫アンドロイドを作ってもらったんです」


「え……」


面食らった記者は言葉をうしなった。

あまりに人間離れした良い旦那さん。見た目だけは人間にしか見えない。


「れ、恋愛のカタチはひとそれぞれなんですね!」


「そうです。でもひとつだけ不満があるんです」


「不満? こんなパーフェクトイケメンメンズロボの何が不満なんですか?」


記者は質問した。



「常に私へ恋愛感情をいだかせる必要があるので、

 毎月の恋愛料金がかさんでしまうんですよ……」



現在の出費の多くは、恋愛買い取り業者からの恋愛感情購入が多くを占めていた。

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