第31話深夜の殺害と新しい種
「それじゃ、この国は今まであっちの世界の人間を殺し、私達の学園にも犠牲者を出して、こんな世界に拉致してきたの…?」
学生達の雰囲気が一変し、怒りの色に染まる。
「でも犯人は解らないし、魔法陣を知る人や資料を始末しないと終わらないと思うんだよ」
「王に直談判したらいいじゃない?」
「もし王がその件に噛んでた場合、秘匿された上に監視が付くかも知れないよ?」
「…今できる事がないのか……」
「一旦野菜が召喚されるように魔法陣書き換えて来たけど…」
「時間は稼げそうなのね…」
「うん、だから今日は農地に魔力注げない。ごめんね」
「ううん、時間稼ぎしてくれてありがとう!」
ふう、と溜息をついて肩を落とす男子生徒が呟く。
「やっと横暴な獣人国から逃げて来て上手く行ってるように思ってたのに、元凶がこの国っていうのはキツい…何を信じていいのかもう解らない…村の人は信じてるけど…」
それを聞いた他の学生も項垂れる者がいくらか出てくる。
怒っても、落ち込んでも、今はどうしようもない。
暫くは何度か深夜にあの場所に通って、魔力持ちが通り掛かったら急襲する事にする。
私が光を使うと目立つため、念の為にシェラドさんが貰っていた軍用ナイフを借りた。
これも重いが振り回せない事はない。
…シェラドさんが付いてきて私より早く屠ってしまう想像しか出来ない。
「資料を探すのは時間が掛かりそう…でも多分機密書類として何処かに保管してると思う。現在その小屋に魔力持ちが通ったのを見つけた時には、全員殺す心算だから安心して」
私が『殺す』とすんなりと口にした所為か、全員に緊張が走る。私は少し眉尻を下げる。
「生かしておくと魔法陣を再構築する知識を持っていられた時に困るの。完全に消してしまわないと」
「そ…そうよね…また巨大
「俺も無理…つか、通常の
「でも私達が守護を放棄したら、何も知らない都民の人達が殺されちゃうよ」
「それはな―…寝覚め悪いよな―…」
ぐぬぬぬ、と国に対する不満と、放置も出来ない一般人の生死についての葛藤で生徒達は唸っている。
「二度と召喚出来ないよう、私は全力を尽くす。だから、経過は報告するけど、危ないから踏み込まないでね」
「うん…それは解った。私達が出来る事なんて少なそうだし…」
「怒りで冷静な判断も出来なさそうだしな」
ひと先ずは納得して貰えたようで良かった。
今日は農園の取入れと王家への献上、農地の整地と堆肥を入れての混ぜ込み、畝を作って種を植える作業だ。
私は農作物召喚で手に入れた種を色々と手渡す。
実は私とシェラドさんで朝ごはんに食べた。
柿・アボカド・コーヒー豆・空豆・柘榴だ。
「コーヒー豆!!焙煎前だ!!うわコーヒー飲める!?」
「アボカド~!!これは増やさないと…!あぁシーフードが有れば完璧なのに!エビとかサーモンとか!」
わいわいと新しい種を前に、その分の耕作地をさっさと増やす生徒達。
嬉しそうに種を植えている。
他の作物も取入れ、王家献上用の3籠はよけて置く。
根起こししてきちんと畝を作るところまで作業して貰い、種植えを手伝う。
魔力は流せないので種を植えた後一休みしていたら、学生たちが全員で農地を囲んで「美味しく育てー!」と言いながらありったけの魔力を注いだ。
人数で範囲をなんとかカバー出来ていた。そして全員がぱたりと倒れた。
「わ、わわわ私じゃ運べないよー!?」
農地を囲んだまま暫し眠る学生達を念の為魔力で探る。
小さい小さい器があるが、どうやら自然回復が見込めない。
どうやら食事で私の魔力を貯めた分だけしか使えないようだ。
でも、元々魔力ありきで活動していた訳じゃないからか、暫くしたら気絶から覚めた。
「これでユーリちゃんの代わりが出来たかな??」
「上手く行ってるといいね!」
わいわい嬉しそうに会話しながら、収穫した籠を背負って帰っていく。
3男子が私の家に籠を届け、そのまま共に献上に上がる。
王宮へ行くと、不穏な魔力はスッキリなくなっていた。
ふ、とほくそ笑みながら名パスで謁見の間に行く。
「おお…今回も美味しそうだな。儂の好きなももとあすぱらもある。いつも献上、感謝しておるぞ」
「光栄なお言葉です。ありがたく受け取ります。こちらこそ農地を貸して下さりありがとうございます」
「そう言えば勇者殿は魔法が使えたのだったな?」
「光魔法のみですが」
「魔法使いが2名ほど不調だと申すのだ。他の者はむしろ好調のようなのだが、何か原因に心当たりなどないか?」
「私は不調になった事が…ああ、魔力を使い切ると倒れますね。そういう事ではないのですか?」
「いや、上手く魔法が使えないと申すのだ」
「それは…なった事がないので解りかねます」
「一人連れてきておる。診て貰う事は可能だろうか」
「診るだけなら大丈夫です」
奥の扉から1人のローブの人物が現れる。顔はフードで隠れており確認出来ない。
私はその魔法使いの手を握った。
魔力を這わせていく。この人物の魔力パターンは把握した。
一番に出てくると言う事は、王が絡んでなくても絡んでいても、どちらにしろ例の魔法陣に関する上の方の人物だろう。
見かけたらすぐ解るよう、こっそりとマーキングもしておく。
魔力の器に触れるが、どうやらこの人物の元の属性は闇。其処に私の農作物を食べたものだから、光属性が反発して魔力が練れなくなっているようだ。
「…農作物、食べていますね?」
「はい。とても美味しい野菜で凄く嬉しいです」
「それが原因です」
「――は?」
「農作物には私の魔力が通してあります。貴方の持つ属性と体内に入った私の魔力が反発して魔力が練れない状態です」
「えっ…じゃあ私はあの野菜を食べてはいけないんですか…?そんな…」
「もし他に同じ症状が出てる人が居るならその人も同じだと思います」
「…1人だけ居ます…闇属性の者が…そっか…あいつも…」
魔法使いは、ガックリと肩を落とすと、ぺこりと頭を下げ、奥の扉から出ていく。
「先ほどの者は、農作物を食べなければ問題ない、と言う事だろうか」
「そうですね。美味しい野菜なだけに我慢するのは大変だと思いますが、闇属性の者には別で農作物を使わない料理を出すようにして頂ければ治るかと」
「むむむむ…可哀そうではあるが…仕方がないようだな。診て頂いて礼を言う」
其処で退出を許される。
魔法陣の件を口にする事は無かった。
ないからと言って関わっていないと決めつける事もできないが。
「…解らねぇな」
「王が関与してるかどうか?」
「そそ」
3男子が帰り道、ひそひそ話している。
それは私も同感だ。
関与してるならさっさと尻尾を見せて欲しいものだ。
家で風呂に入り、唇を噛みながら学園に登校する。
学園は、先日の異形騒ぎからこっち、私を侮るような目で見る者が居なくなった。
「遅かったね!今日も王宮に?」
「うん、献上してきた」
「毎週お疲れ様だよ。王宮なんて緊張するだろうに」
「んー、そうでもないよ」
「そうなんだ!?それは凄いな…」
その日は体育で私がバスケでダンクシュートを決めた。
家に戻るとご飯の準備をする。
リムザの足の炙り焼き、焼きソーセージ、野菜たっぷり鳥肉入りのホワイトシチュー、パンプキンパイ。
狩りから戻ったシェラドさんは、肉を見て嬉しそうだ。
炙り焼きもソーセージも実に美味しそうに食べてくれる。
ホワイトシチューも、肉程じゃないけど喜んで食べてくれた。
とろっとしたのが美味しい、だそうだ。
ホワイトソースが好きなんだな、と思った。
パンプキンパイには肉は入れていないのでちょっと反応が気になったが、カボチャが好きなようで、美味しく食べてくれた。嬉しい。
食べ終わったら体を水で拭いて仮眠する。
ここ数日は連日深夜に通う心算だ。
深夜に用がある人物が居るかは解らないが、居るとしたらどんな日に通っているかを確認する意味もある。
深夜に起き出し、王宮裏に向かう。
小屋の影に潜んで数時間待つ。
早朝も近くなった頃、2人連れの魔力持ちがやってくるのが解った。
「毎日魔力尽きるまで注いでるのに減ってるってどういう事だろうな?」
「エシェス様が言うんだから間違いないんだろうけど…ああ、この間献上された野菜が山ほど魔法陣の上にあったけど、あれなんだったんだ?」
「さあ…でもあれ、いつも献上されてる野菜より美味しくないよな」
「あ、解る」
エシェス様。
上の者の名前か。
それとも首謀者なのか。
国王はラグシェイドなので名前が違う。
扉付近まで来た際に、私が短剣を構えると、その瞬間に二人の首は飛んでいた。
シェラドさんだ。
やっぱり私の動きじゃまるで追いつかない。
けれど光刃で殺すとアシがつく。
私は苦笑する。
そして、今日のところはこれで引き上げる事にした。
「上司の名前は解ったね。後はこの事件を国王がどう扱うか、反応を見ないと」
目覚ましにバシャバシャと水で顔を洗う。
「
シェラドさんは犬歯を剝き出しにして怒っている。
あぁでもしかし。
確かに責任者には全国民に詫びた上で、公開処刑しなければ国民の怒りは収まらないだろう。
関わった者にも静かな死を。
二度と画策出来ないように。
着替えた私は農園に出かけた。
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