第20話招聘とピーター達
余程疲れていたらしく、金髪の団体は丸一日目を醒まさなかった。
目が醒めた後、書置きを見て冷蔵庫と冷たい水に感動し、お互いの綺麗な姿に感動し、恐る恐る村へと出て来ると、寄って来た人々に口々に礼を言う。
涙ながらに礼を口にする人々に、にこにこと朗らかに村人たちは対応する。
金髪の人々の集団のリーダーはピーターさんと名乗った。他の人々も名乗ってくれたのだが、横文字の名前を一気に言われても私の頭には入らなかった。
会議堂に押し込めてると思われないように、村の中央にあるバーベキュースペースで朝食を摂る。
サラダにミートソースパスタ、デザートに果物。
欧米人は米には慣れていないだろうという気遣いでパスタを出したようだ。
ピーターさん達は来た時からもう涙腺がおかしくなっているんじゃないかと思わされるほど、泣きながら「パスタ…パスタだ!!パスタ…!」と喜んで食事を摂ってくれて、サラダも、本当に大事そうに食べていた。やはり海の近くでは野菜は摂れなかったようだ。
「ここまでの事をして頂いて、私達に返せるものは何があるでしょう?」
「今は狩りで獲物を獲ってくれるだけで充分よ。シェラドさんと一緒に頑張ってちょうだい?此処の生活に慣れて落ち着くまでは、お返しとか考えないでいいのよ。落ち着いたら何かでお返しして頂戴な」
「あっ…ありがとうございます!!」
何度もお礼を言いながら、ピーターさん達は何度も振り返りながらシェラドさんに狩りを教えられに森へ消えて言った。
土木作業員と一緒に隣の敷地として大体の範囲に杭を打っていく。
畑を作ることも考えてそれなりの広さと立地を考えて配置した。それを元に塀を立てて行く。
私は岩石地帯まで赴き、大きなバスタブを削り出した。一旦置いておいて、シェラドさんに明日運んで貰うことにする。
そして大事な事を思い出した。
――しまった。今の私、学生じゃなかったっけ。
すっかり昼になっている状況に思考がストップする。
今更遅刻で登校するにも遅すぎるし、今日の登校は諦めて、一旦戻ってきたシェラドさんにバスタブを運んでもらい、お昼ご飯にする。
私達はごはんだが、ピーターさん達にはパンを配った。おかずが和食寄りなのは諦めて欲しい。
だが、そんな事は気にせず、ピーター達は美味しそうにごはんを食べている。今までは少しの獣と殆どは魚、野草で食いつないでいたらしい。
昼休みを挟んで、ピーター達は再度狩りに戻り、私は隣の土地の雑草を、光刃で刈っていく。綺麗に刈りつくす頃には夕方になっていた。
戻ってきたシェラドが言う。
「物凄く筋がいい。特に集団戦闘は目を瞠るものがある」
「うーん。何かやってた人達なのかも」
ピーターさん達に話を聞いてみると、特殊部隊や軍関係者ばかりだった。一般人も居たそうなのだが、過酷な生活に耐え切れず、亡くなったとの事。
守護隊という仕事があると話をすると、全員が所属を希望した。ただ、今は身体が弱っているため、しっかりとした体つきに戻ってから入隊を打診するという事になった。
そして、一日振りに学校へ行くと、校長室へ呼び出された。一日休んだだけにしては大袈裟だな、と思っていると、意外な事を告げられる。
「王都守備隊より、招聘されています。学校もあちらで通えますし、王都に移住して頂けますか?」
「…今は遠慮します。まだこちらの守備隊予備軍が育っていないので」
「…王都ですよ!?そんな簡単に…」
「いくら王都でも、ここより居心地が良いとは思えませんね。移住したいかどうかと聞かれれば嫌だ、と答えます。それでも招聘されたと言う事は王族が絡んでいるのでしょうから、そういう自分の事情を置いておくとします。しかし、今この町の守護隊の少なさは深刻です。丁度守備隊に丁度いい人材が居るのですが、まだ身体がしっかりしていないんです。彼らが育つまでは離れる心算はありません」
「…解りました、期間延期、という事で返事をしておきます。いずれは王都へ行って頂きますが、今しばらくはこちらへ留まる、という事でいいですね」
「はい」
がたりと席を立ち、クラスへと戻る。
ああ、あの村が好きなのに。どうしてこうも上手く行かないんだ。
授業が終わり、村へ戻ると村が騒然としていた。電気工事をしている会社の人たちが特にプンスカ怒りながら鉄材の処理をしている。
「どうしたの?」
「王都まで電気引けって『命令』されたんだよ!発電所から此処まで引くのもそれ以上に大変な事だったがよ、自分らで利用するっていうモチベーションで何度も挫けそうになりながらもやっと引いたんだよ!もう鉄材も、元の工場からありったけ持ってきて残ってない!しかも王都までってどれだけの距離があると思ってるんだ!電線はまだ余っちゃいるが、王都までは足りない!どうしろってんだ…」
「物資が足りないと言わなかったのか?」
「王都からの使いのもんは、言いたいことだけ言ったらサッサと帰ってこっちの言い分も聞かなかったよ」
私は話を聞いてはぁ、と溜息を吐く。これはどうしようもない。使者が悪い。
「シェラドさん、私を担いで王都まで走ってくれる?」
「いいぞ」
到着は夜も近い夕方くらいの時間帯だった。遅かったが謁見の申し込みは名前パスだったのか通った。
「招聘に応じてくれる、と思って良いのだろうか?」
「いいえ、そちらは今育てている守備隊候補達の体がしっかりするまで延期をお願いします。それより電気の件です。もう資材がない状態で、王都までとても電気を通す事等出来ない、とうちの村の者が申しておりました。なんでも、その話すら聞かずに使者が帰ったとか。鉄も電線もどちらも足りず、此処まで引くことは不可能です」
「…鉄ならば融通できるが、デンセンというのは何を融通すれば出来るのかね」
「確か…銅と…絶縁体と…外側のビニール?でしょうか、私は専門ではないので詳しくはお答えできかねますが、容易に出来るものではありません。ビニールってそもそもこちらにあるんですか?」
「いや…聞いた事がないな。解った。鉄材は用意出来るが、そのデンセンとやらの材料が解って加工出来るようならばこちらに資材を要求して欲しい。伝えて貰えるか?」
「…無茶振りをされる方でなくてホッとしております。そのように伝えます」
「うむ」
やはり魔力が濃い。以前より少し濃さも増しているようだ。だが、今回はそれに言及する事無く、御前を辞した。
「朝になっちゃうかもだけど、夜中、走ってもらって大丈夫?」
「問題ない。獣人は夜目が利く」
一旦王都の店でごはんにする。野菜が少ない。農地が重視されていないのだろう。
調味料にしても、村のものの方が口に合う。肉が多いと喜んでいたシェラドさんも、眉を下げていた。
まあ、もしかしたら口に合う調味料を使っている店もあるのかも知れない。だがあまり期待はしない方がいいようだ。
頼もしいシェラドさんに抱えられ、また村まで戻る。朝だ。…学校休んで寝ていいよね?大体王都が悪い。
起き出して来た電気工事員さん達に伝えると、少しホッとしたような顔になる。
「塩化ビニルか…。うち自社で作ってたか?外注じゃなかったっけ?」
「いや、一応自社で作ってたぞ。エチレンが残ってたかどうか怪しいけどな」
「げっ。ナフサから作るとか有り得ない…原油が置いてあるのは知ってるけど…」
「まあ、褒章がどんなもんかにもよるな。後、原油が多分足りないだろ。銅もな。鉄は加工してくれる鍛冶師付きじゃなきゃ無理だ。手紙に書いて送るわ。嬢ちゃん達にメッセンジャーやらせるのもいい加減にしないとな」
急ぎでなくなったならそうして欲しい。私は朝ごはんを食べながらうつらうつらしている。
ああ。やっぱり村のご飯は美味しい…野菜最高です…。
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