食い尽くし系彼氏
五來 小真
食い尽くし系彼氏
「―ちょっと、私の分は?」
「何を言ってるんだ? もう散々食べただろ?」
彼氏はいわゆる食い尽くし系だった。
事前にSNSで見た時に知識を得ていた私は、ここで怒ったら別れることになると感情を抑えた。
しかたない、パンでも食べるかと冷蔵庫を開けると、パンもなくなっていた。
一度、深呼吸をする。
——大丈夫。
もしも自分の彼氏が食い尽くし系であれば、どうするかのシミュレートはしてある。
「——次はあなたが料理してみてよ」
「料理? 面倒だなあ」
「ジェンダーレスの時代よ? 料理だってしてみないと。一回でも良いから―」
「うーん、わかった」
私が料理している間に食べられるからダメなのだ。
料理をさせて先に食べるのを防げばいい。
ネットで見た人たちは、知恵が足りてないだけ。
意外に彼氏は料理が下手ではないようだった。
いい匂いが台所から、漂ってくる。
これは期待できそう。
シャーシャーと軽快な調理の音が鳴る。
随分凝った料理を作っていそうだった。
やがて音が収まった。
そして匂いも薄れていた。
「うーん、疲れた。一回作ったから、次は君の番だよ」
そしてようやく彼氏が顔を見せると、満足そうにリビングに寝そべった。
「ちゃんと食卓に並べてよ」
そう文句を言いながら台所に行くと、調理後のグチャグチャになった台所が目に入ってきた。
開けられたビールに、何かを食べた跡。
そして菜箸だけが行儀良く更に置かれていた。
当然のごとく、何も残ってはいなかった。
―やられた。
料理している最中に食べられることまで考えてなかった。
一緒に料理して、一緒に食う——!
これしかない。
こうして料理は二人で作り、つまみぐいのバトルをすることで、何とか共存関係を築くことに成功した。
そう、食い尽くし系彼氏であっても、なんとかなるのだ。
「——ちょっとあなた、なにやってるの?」
親戚の集まりの時、叔母に声を荒げられてハッとなる。
つい家の時の癖で、つまみ食いしていたのだった。
料理しては食べ、ちっとも皿には乗らないまま、すっかり親戚の分がなくなっていた。
そうか、他の家だとこうなっちゃうのか……。
「まったく意地汚いなぁ……。君には分別ってものが欠けてるよ」
彼氏にまで、そんなことを言われた。
これは、二人してカウンセリングを受けるべきか……。
怒声を上げる叔母を前に下向いて、自分のたるんだお腹を見ながら、どこの医者へ行こうかと考えた。
<了>
食い尽くし系彼氏 五來 小真 @doug-bobson
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