第22話 ep6 血の暴走
22話 血の暴走
黒衣の兵に変装したメッシュは、列の最後尾についていた。
無骨な鉄靴の音を響かせ、周囲の兵たちに合わせて歩調を刻む。
(……臭うな)
列が近づくにつれ、鼻を突くような鉄と腐臭が混ざった匂いが広がる。
重厚な扉が開かれると、激臭とうめき声が押し寄せ、吐き気が込み上げてくる。
実験室。
そこは人の理性を打ち砕くほどの地獄絵図だった。
切り刻まれては再生させられ、血を抜き取られる悪魔。
檻の中で暴れ狂い、もはや「人」ではなくなった獣たち。
それらを前に、白衣をまとった司祭が命令を下す。
「兵たちよ、解体作業に移行しろ。」
黒い兵士たちはそれぞれの持ち場に散り、冷徹に血を回収しはじめる。
メッシュも例に漏れず、ある檻の前に立たされた。
(……これは、地獄そのものやな)
拳を震わせる。だが下手に動けば怪しまれる。
そのとき――。
「どうした?」
金と白の甲冑を身にまとった聖騎士が、鋭い視線を投げた。
巨大な槍を肩に担ぎ、異様な威圧感を漂わせている。
「貴様。番号表を出せ。」
ぐっと詰め寄られ、メッシュは奥歯を噛みしめた。
そして次の瞬間――拳を叩き込んだ。
「外道めッ!」
鈍い衝撃音。
油断していた聖騎士が吹っ飛び、実験台を破壊して転がる。
「裏切り者だ! 黒兵を捕らえろ!」
周囲の黒い兵士たちが一斉に襲いかかってくる。
メッシュは構えを低くし、迎え撃った。
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体術の乱舞
黒兵はただの兵士――そう思っていたが、意外にも鋭い動きを見せる。
槍の突き、剣の薙ぎ払い、盾の打撃。
動きこそ単調だが数が多い。
「ちっ、数で押す気か!」
メッシュは踏み込み、一人の兵士の首筋へ掌底を叩き込む。
鉄仮面が歪み、兵が床に崩れる。
同時に背後から迫る斬撃を膝で受け流し、肘で相手の兜を打ち抜いた。
一撃必殺。だが数は減らない。
四方八方からの攻撃を、転がり、跳ね、受け流しながら体術でしのいでいく。
「できれば……殺したくないんや」
呟きながら、彼は急所を外して打ち込む。
骨は砕けても命は奪わない――それが彼の信条だった。
だが。
「甘いな。」
響いた声とともに、先ほどの聖騎士が立ち上がった。
金の甲冑はへこんでいるが、なお凄まじい気迫を放っている。
腕を切り裂くと、噴き出した血を槍にまとわせた。
次の瞬間、血が金属と混ざり、赤黒い輝きを放つ。
「我が血を捧げ、金属を狂わせろ――《血金属暴走》!」
槍が咆哮を上げ、狂気じみた力を放つ。
振り下ろされた瞬間、床が砕け、火花が飛び散った。
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逃げるように――しかし
「クソッ、洒落にならん力やな……!」
メッシュは即座に後退。
突きを避け、薙ぎ払いを跳び越え、壁を蹴って転がる。
その動きは、ただ必死に逃げ回っているようにしか見えない。
聖騎士は嘲笑を浮かべる。
「逃げ惑うだけか、下ノ街の鼠よ!」
しかしメッシュの目は笑っていた。
額に汗を浮かべながらも、どこか冷静な光が宿っている。
黒兵の群れも襲い掛かる。
彼は受け流し、叩き伏せ、すれ違いざまにわずかに腕を切り裂かせる。
血が滴り、床に落ちる。
――赤い点が、やがて線を描く。
(……あと半周や)
必死に避けながら、彼は部屋を一周するように動き続けた。
そのたびに床に血が散り、やがて円環を成す。
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「もう終わりだ!」
聖騎士が大槍を構え、全身の血を金属にまとわせる。
狂気の赤黒い刃が、獣のように唸りを上げた。
その瞬間、メッシュは足を止めた。
追い詰められたように見える。
「……ほんまに、外道やな。」
拳を地に叩きつける。
血が閃光のように広がり、部屋の床に刻まれていた円環が赤黒く輝いた。
結界が完成する。
「――《血界封陣》。」
轟音。
聖騎士も黒兵も、その場で硬直した。
全身を赤い光が縛り、動きが停止する。
「この範囲内の奴らは、十秒間――時が止まるんや。」
メッシュは歩み寄る。
赤い光の中で停止した聖騎士の顔は、怒りに歪んだまま固まっていた。
「できれば……殺したくなかったんやけどな。」
拳を振りかぶり、渾身の一撃を叩き込む。
甲冑が粉砕され、血飛沫が凍りついた時間の中で舞い散る。
次の瞬間、封陣が解け、世界が動き出した。
轟音。
白金の聖騎士は壁に叩きつけられ、動かなくなった。
黒兵たちも次々と倒れ伏し、戦場に沈黙が訪れる。
---
メッシュは荒い息を吐き、額の汗を拭った。
「……さて。まだ奥があるはずやな。ここで立ち止まっとる暇はない。」
視線の先、さらに深く続く通路が口を開けていた。
彼は歩みを進める。
その拳にまだ、闘志は燃えていた。
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