第5話
色欲の名前を授かってしまった俺ことラストは今、夜の街を歩いていた。
もちろん、1人でだ。
あぁ、当然だが、見た目は人間に扮している。
契約主(仮)である少女……アリアナ・チェントラッキオは学園の寮でぐっすりと眠っている。
一応、アリアナにはちゃんと「中で大人しくしてなさいよ! た、対価に関しては、き、今日はまだ、ダメだから! こ、心の準備くらいさせて!」と言われたが……まぁ、俺がそれに従う理由もないしな。
そりゃ当然のごとく外に出るさ。
せっかくあの虚無の世界から開放されたっていうのに、バカ正直に命令に従って寮の部屋で過ごすなんて、考えただけで気分が悪くなる。
まぁ、アリアナの言っていることを無視して、心の準備をされる前にそういうことをするって選択肢も一応あったんだけど……今は性欲よりも自由を謳歌したかったんだよ。
性欲も自由の範疇だと思うけどさ。
「ん」
肩がぶつかった。
考え事をしていたとはいえ、俺が前方不注意だったわけじゃない。
向こうからぶつかられたな、こりゃ。
「ってぇなぁ?! てめぇどこに目ェつけてんだ?! あァ?!」
今はこんなやり取りでさえも俺は嬉しかった。
だって、悪魔の世界ではこんなやり取りすらなく、ただただ相手を殺すための攻撃だけが繰り返されていたのだから。
「ふふっ」
「何がおかしいんだ! てめぇのせいでこっちは服が汚れたんだぞ!? 肩も痛ェしよぉ! 服の弁償代と慰謝料よこせや!」
夜とはいえ、人通りのあるこんな場所でよくやる。
ただ……やっぱり良いな。
人の悪意でさえも、俺にとっては懐かしく、ただ心地よかった。
「場所を変えよう」
とはいえ、俺に喧嘩を売ったんだ。
ただで済ます筈がなかった。
昔の俺ならともかく、今の俺は何千年と殺伐とした悪魔たちの中にいたわけだからな。
実際、喧嘩を売られて、分からせたことだって何回もある。
「話が分かるじゃねぇか」
弁償代や慰謝料を払うだなんてことは一言も発していないんだが、男の中ではもう俺が金を払うと頷いたことになっているみたいだった。
「この辺でいいか」
路地裏にやってきた俺は、一言呟くようにそう言った。
「なんだ? 金貸し屋にでも行くんじゃねぇのか?」
周りに気配が無いことを確認してから、俺は姿を変えている魔法を解いた。
「……は?」
男の心底訳が分からないといった言葉だけがその場に響いた。
「なん、なん、な、なん、で……なんで、悪魔が1人でいるんだよ!? じ、冗談だろ? 周りに、契約者がいるんだろ? わ、分かってんだよ。なぁ?」
俺は何も言わない。
「ま、待ってくれ。わ、悪かった。ち、違うんだ。じ、冗談だったんだよ。ほ、本当に違うんだ! し、信じてくれ!」
「そうなのか。それなら、精々後悔して死ね」
その瞬間、男は虚無へ消えた。
そう、悪魔の世界へと。
「今頃、悪魔に囲まれてるだろうな」
向こうの悪魔たちが突然のことに驚く時間も考慮すれば、5秒ってところかな。
絶望するには十分な時間だな。
気を取り直して、行こうか。
あぁ、今更だけど、外の空気が美味いな。
あの世界とは比べ物にならない美味さだ。
人間の食い物も食べたい。
金ならアリアナのポケットマネーをすこーしだけ無断で借りたものがあるから、飯屋にでも行こうか。
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