旅
秋狛
旅
私はいま、旅をしている。
目的地はなくて、ただ、地図を見ながら、風景を見ながら
思いついた場所に足を運ぶ。
ある時、旅の途中で一人の人間と出会った。その人は私に向かってこう言った。
あなたはどこへいくの?どこへ行きたいの?
わからない。
わからないよ。
わからなくてはいけないの?
目的地を決めないと、前に進めないじゃない?
目的地がなくても、歩き続けることはできるよ
遠回りをすることになるかも
遠回りをしてはいけないの
そうじゃないけど、なんだか可哀想な気がして
可哀想…
そう、可哀想。本当に行きたい場所に辿り着けない。永遠に。
本当に行きたい場所、君にはあるの?
…あるよ。そう、私には夢があるから。こうありたい、こうなってみたいっていうね。
へぇ…いいね
うん。
闇雲に歩くのは良くないと思う?
それで何か見つかるならいいんじゃない?でも、あなたはそうじゃない気がして。まるで何も見付けたくないって思っているような感じがして。
…そうか。……そう、かもしれない。
今まで、これがいいかも、これをやってみたいっていうものがたくさんできてて、その場その場で次の居場所を決めていた。
出会うはずのなかった人たちにも出会えた感じがして、ちょっと楽しかった。
でも、私の居場所はきっとここじゃないって、ずっと思ってしまうんだ。
私はいつまで歩き続ければ良いと思う?
このまま居場所が見つからないまま死んでいくのかな?
きっと私は疲れているんだ。新しい世界を見ることに。
…そっか。疲れたら立ち止まらないと、だもんね。倒れちゃったらもうその先は、ないかもしれない。でも、新しい世界って本当にあるのかな。本当は新しい世界なんてないのかもって考えることもできるんじゃないかな。世界なんてただ平坦な日常の積み重ねだよ。ただ淡々と良いも悪いもなく、身体の生命活動が終わるまで続いていく日々。きっと君はその平坦さに飽き飽きしてしまっているだけ。人生の山場を作るのも、平たい部分を作るのも、深い谷底を作るのも自分。自分の行動次第だよ。疲れてても、先がわからなくても、作り続けることには変わりないんだよ。
うん、わかってる。わかってるんだ。
それでも、体が動かないんだよ。進もうとして、一歩を踏み出そうと前を見ると、高すぎる壁が何個も何個も。私の行く手を阻んでる感じがする。
怖い。壁の上ではみんながこっちを見てる。怖い目つきで。品定めをするように。本当に怖い。もう、ここは登りたくない、壊したくないって思って。私はいつも逃げ出すんだ。淡々と続くであろう日常から離れて、谷底へ向かっていることも分かりながら、前にだけ進んでいく。わかってる。わかってるけどどうしても上へのイメージが持てない。足が進もうとしない。こういう時はどうすればいいの。もうずっと暗い道を歩き続けてる気がする。助けてよ。君に何ができる?私は何をすればいい?
人はみんな違うから、向かう方向もバラバラだから、それが良さだから、そのまま進み続けるのも良いし、環境を変えてみるのも良い、何か別なことで気を逸らすのも良い。逃げだって決して悪いことではない。私は君を助けてあげられないかもしれない。私と君は別だから。でも君が生活を、考え方をちょっと変えれば、救われる未来があるかもしれない。
ちょっとずつで良いから、自分のペースで良いから、思いついたものからやってみよう。こういたい、こうやりたいがあったら、すぐに実行するんだ。疲れていても、怖くても、結局は進み続けるしかない。休んだっていい、逃げたっていい。でも、ちゃんとゴールはしよう。その気持ちではいよう。
うん。
私はちょっと目的地を考えてみようと思った。
この旅はどこへ続いているのか、どこに辿り着きたいのか。
答えはまだまだ見つからないかもしれない。
この地図は、どこまで続いているかもわからない。
でも旅は続いていく。目的地。旅の終着点。そこで自分はどんな姿をしていたいのだろう。
ありがとう。
いいえ。さあ、行ってらっしゃい。
そう言葉を交わし、私たちは別れ道を歩いていく。
まだまだ続くこの先の道に、ひとかけらの期待だけを胸に。
終
旅 秋狛 @Akicom75
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