第5話 JUNK CHILDREN 1

  施設に着いたのは、深夜2時を少し過ぎたときだった。湛司の管理していると言う未成年保護施設『リンドウ』は、駐車場から少し離れた山の奥地にそびえている。

 正直、体力皆無の俺にはキツイ距離を歩く。

「静久、お前の妹は小学生だったよな?」

「そうだけど…」

「じゃあ、新入りちゃん任せてもいいか?」

「はあ!?」

 4、5度訪れたことがあるくらいで、トイレ掃除に風呂掃除、ダイニングの整頓や庭の手入ればかりで、仕事の大体が雑用だった。唯一人と関わったのは、あの爺さんみたいな薬物の密売人を取り立てるときくらいだ。

「小学3年生から、せいぜい4年生くらいの女の子だ。静久なら慣れてると思ったんだけど」

「慣れっていっても、家族とは扱いが違う。好き嫌いも、性格も…それに、俺の妹は薬なんか・・・・してないし…」

「ふうん…。静久。今日の仕事、やめとく?」

「は?どういうことだよ?」

「嘘だよ。でもお前、わかってるよな?ここの施設にいる子どもたちのこと」

「薬の誤飲とか、他人から強制的に吸わされたとか、そういう事件事故の被害者だろ?」

「あの子たちも好きでやってるんじゃないってこと、分かれよ」


 会話が一区切りつく頃には、「未成年保護施設『リンドウ』」の文字が見えた。

 木々の高さには勝らないが、立派な建物だ。

 それもそのはず、元はホテルか何かだったらしい。

 門をくぐった先にある玄関には、ここの職員であるアンナと神田宗真かんだそうまが見張り番で立っていた。

「ふたりとも。あの車の後ろのやつ、廃棄場に運んでおいてくれ。僕も後から手伝う」

「了解です」

「わかりました」

 各々の返事を返して、2人は持ち場を離れる。


「その子、3階の個室にいるから顔合わせでもしたら?どうせ、眠れてないだろうし」

「じゃあ、そうする」

 俺は手洗い、歯磨き、シャワーを終えてからでないと子ども部屋への入室は許可されない。

 理由は聞かなくてもわかる。

 そのすべてを終えて、エレベーターで3階へと向かうが心配しかない。

「大丈夫…だよな」

 緊張で固唾をのむ。

 部屋のドアをノックするが返事はない。

「入るよ…」

 小さく扉を開くと、か細い悲鳴が聞こえた。

「ひぃぃっ…!」

「ごめんね…。眠れないんだよね…」

 プルプルと震えるだけで何も言わない。

「大丈夫だよ、怖くない」

「………」

「入ってもいい?」

「………」

 やっぱり、何も言わない。

 いや、こんな子俺にどうしろと…?でも、行動しないと意味ないよな。

 俺が部屋に一歩踏み出すと再び、今度は甲高い声が響いた。

「……っ、はっ、入らないで!!!」

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