猩猩の使い

あおじ

田舎


 35歳の夏の終わり、私は妻や子ども、そして両親にも何も告げず一人で祖父母の家がある田舎へと向かった。

 家といっても既に祖父母は他界しており、空き家となったそれは売りに出されてはいるが一向に買い手は現れない。

 それはそうだ、携帯電話が圏外になってしまうようなド田舎に好んで住みたいと思う人間などそうはいない。



 長閑な風景の中を走るディーゼルカー、乗客は私以外誰もいない。

 徐々にスピードを落とし始めた車体、窓の外を見ると駅が見えてきたので席を立ちドアの方へと歩いて行く。

 そうして降り立った無人駅は閑散としていて人の気配はない。運賃箱に切符を入れて駅構外へ出ると、夏ももう終わりだというのに空気は熱かった。

 そこから徒歩で私が向かうのは祖父母の家──ではなく、祖父母の家の近くにある小高い山の渓流だ。



 村の中を汗を垂らしながら歩く。すれ違う人は誰もいない。

 私がこうしてこの地へ足を運んだのは実に24年振りのことである。祖父母の葬儀の時にさえ私はこの場所へとやって来なかった。

 24年前、私がまだ11歳の時。私はここで……いや、あのの渓流で"サロ"という美しい少年に出会った。

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