夢の泉
宏量ライト
第1話
「隊長、聞いてますか?」
すぐ側から発せられた声に男はふと我にかえる。
「すまん。すまん。なんの話だっけ?ビーテ」
「ちゃんと聞いてくださいよー。スキュレ隊長は時々話の途中でも自分の世界に入っちゃうんだから」
仕方ないなー、と言いながらビーテは頬を膨らませる。まだどこかあどけない表情を向ける部下に諫められ、私は申し訳なさそうに頭をかく。
「えっと、確かリイスがどうのって話だったような…」
「そうですよ。リイスの話です。あいつ最近変なんですよ。」
リイスもまた私の部下であり、ビーテの同期である。
リイスはあまり人と話さなかったので、私は彼の様子に違和感を感じなかったが、どうやらビーテは違ったらしい。
「それで、お前的には何がどう変なんだ?」
どこが変なのか、という質問に対する答えは用意していなかったらしく、ビーテは腕を組んで、うーん、と唸る。
「そうですねぇ…。なんか、リイスの皮をかぶった別人って言うか…。理想の自分になったんだー、とか言ってましたけど、そんなことを言ってる時点であいつっぽくないんですよ。でも、別人みたいだけど、声も見た目も紛れもなく本人って感じなんだよなぁ」
そこでまた、うーん、と悩むビーテ。
その様子を横目に私は考える。
なんにしても一旦本人と話す方が早そうだ。実際に話してみればビーテの言う違和感について何か分かるかもしれない。
それに、ビーテの話の中でリイスが言っていたことが本当ならば、俄然気になってきた。
なぜなら私が求める答えもまた、そこにあるのかもしれないのだから。
「…とりあえず本人に話を聞きたいな。あいつの部屋があるのって兵舎の二階だったよな?」
「はい!二階の一番端です。今日は非番なんで、まだ部屋に居ると思いますよ。あいつ、何聞いても誤魔化して詳しいことはなーんにも教えてくれないんで、隊長命令だ、って言って聞いてきてください!」
「ははっ。了解だ。”俺”に任せておけ」
「おいビーテ!休憩は終わりだぞ!早く戻れ!」
上官の声が聞こえ、ビーテは慌てて席を立つ。
「じゃあよろしくお願いしますねー!」
年の割にまだ声変わりが来ていない青年の明るい声が遠ざかって行くのを聞きながら、私も部屋を出ることにした。
その足を兵舎のある方向へ向けながら。
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