不老不死にはラリアット!!

スクレ

第1話

 それは世界にとって晴天の霹靂だった。


「我は最古の吸血鬼、エルヴラド・ヴァーミリオンである。貴様ら人間の上位主たる我が直々に世界を統治してやろうぞ、光栄に思うが良い」


 世界を脅かす最古の吸血鬼からの宣戦布告を発端とし、吸血鬼と人類の壮絶なる戦争の火ぶたが切られた。


 世界の主要な国家間での協議の元、吸血鬼討伐のための軍は結成されまもなく吸血鬼の城攻めが開始された。しかし吸血鬼が扱う魔法や従える軍勢は強力で、並大抵の攻めでは吸血鬼の城を視界におさめることすら叶わない。


 わずかにたどり着いた数少ない英雄たちも、その吸血鬼の無尽蔵の魔力と不死の肉体により消耗戦となり、最終的には敗れ去ってしまう。そうこうしている間にも吸血鬼の軍勢が人類の生存圏を徐々に侵略しているにもかかわらず、各国の首脳陣は有効な策を立てることが出来ずにいた。


 そんな吸血鬼と人類のせめぎ合いの中、一人のプロレスラーが立ち上がった。名をドラゴンマスク(匿名希望)という。


 ドラゴンマスクはどの国の軍にも所属していなかった。しかし強靭な肉体と技、無尽蔵かのような体力を兼ね備えたドラゴンマスクは、単騎という隠密性と行動力の高さを活かして吸血鬼の軍勢との衝突を上手く躱した。そしてとうとう吸血鬼の本陣である城へと肉薄したのである。


 城の中では吸血鬼を守る屈強な護衛達が立ちはだかったが、ドラゴンマスクは並みいる城の護衛達をことごとくラリアットでなぎ倒し、とうとう吸血鬼のいる玉座までたどり着いた。


 玉座に座る吸血鬼は余裕の笑みを浮かべ、愚かにも単騎で侵入してきた人間を褒めたたえた。


「よくぞここまでたどり着いた、人類の英雄よ。まさかたった一人でこの玉座の間にたどり着くとは驚嘆に値する。殺す前に名前を聞いておいてやろう」


「俺の名前はドラゴンマスク(匿名希望)だ」


「ドラゴンマスク、なるほど力強い響きだ。どうだドラゴンマスクよ、人類を裏切り我の配下にならないか?」


「悪いが俺は全人類のプロレスファンを裏切ることはできないんでな」


「そうか、残念だ。ではさらばだ、儚き英雄、ドラゴンマスクよ!」


 吸血鬼は交渉決裂と見るや否やすぐに魔法を放とうとしたその時、プロレスラーが突然うめき声をあげた。


「う、ぐぉおおおお!く、クソっ、先ほどの石像に与えられたダメージがぁぁつ!」


 先ほど立ちはだかった城の護衛から受けた傷が今になって効いてきたのか、痛みのあまりその場で蹲ってしまった。


「ふむ、我の部下たちはそれなりに仕事を果たしたようだ。無様だなドラゴンマスクよ。せっかく我のもとまでたどり着いたというのに、もはやまともに戦うこともできぬとは……」


 吸血鬼はやれやれとばかりに魔法を放つのをやめ、ゆっくりとドラゴンマスクに近づいていく。自分を殺せる人類などいるはずもないと高をくくっている吸血鬼は、愚かな英雄の無様な姿を近くで見ようと不用意に迫ったその瞬間、プロレスラーは目にもとまらぬ速さで吸血鬼の首に渾身のラリアット!


「ぶほぉおうわっ!」


 最古の吸血鬼と思えぬまぬけな声と唾を大量に吐き散らして吹っ飛んだ。


「えふっ、えふっ、えぇっふっ。き、貴様!ダメージを受けたふりなどして、よくも我を騙し――」


 吸血鬼が立ち上がりかけたその瞬間をすかさずラリアット。


「き、き貴様、まだ我がしゃべっておるだろ――」


 再び立ち上がりかけた瞬間を逃さずまたまたラリアット。


「うぇっふっ、おぉえぇぇ、ちょ、喉痛い。貴様ぁ!絶対に許さん!」


 今度は立たずに魔法を放とうとした瞬間に背後に回って拘束。しまいには足を体に巻き付けてのスリーパーホールド。これは不老不死ではあっても失神は確実だ。


「(く、くそっ、我がこんな無様な戦いをするとはっ。だがこれで確実に殺す!)」


 しかしそれでもさすが最古の吸血鬼。中々に意識は途切れず、奥の手として周りに多数の魔方陣を展開し、自分ごとドラゴンマスクを攻撃しようとする。


 だがそれを悟ったドラゴンマスクはすかさず拘束を解き、吸血鬼の両足を脇に抱える。魔方陣が発動し攻撃が当たる寸前、吸血鬼をぶん回しすべての魔法をはじき落とす。俗にいうジャイアントスイングという技である。


 ドラゴンマスクは無傷だが吸血鬼だけが大ダメージを蓄積していく。魔方陣が全て発動し終わった後、ドラゴンマスクは壁に向かって吸血鬼をぶん投げた。吸血鬼は回転による平衡感覚の乱れと壁による頭蓋骨の強打で脳みそがぐわんぐわん状態である。


「う、ぉおおおおろおおおおえぇぇっ、さ、最古の吸血鬼たる我が、こんな……」


 最後のセリフもむなしく、ドラゴンマスクはとどめとばかりに再度スリーパーホールド。3カウントののちに吸血鬼はあえなく失神KOされてしまった。


 それからドラゴンマスクは本国に戻り、吸血鬼を討伐したという報告と証拠として吸血鬼の羽根を献上した。それから世界中で跋扈していた吸血鬼の軍勢は、主たる吸血鬼を失ったせいで徐々に掃討されていった。



 月日は流れ、ドラゴンマスクが再びプロレスラーとして再び活躍し始めた頃。ドラゴンマスクに一人の新しい弟子ができた。リングネームはヴァンパイアマスク(匿名希望で頼む)だそうだ。

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