三.勝手に恋して

 約束したのはテスト終わりの日曜日。

 テスト前も、何度かLINEをして、テスト期間勉強に集中できなかった。今回はやばいかもしれない。

 場所は、莉子の最寄駅の近くの図書館。いつもは混んでいるらしいから早めに行くことになった。

 LINEをしている時の莉子はいつも通り優しく、早く現実で話したいと思う。

 一緒に行くメンバーは莉子と俺と莉子の友達と葵先輩の4人。本当は2人が良かったけれど、気まずいかもということでこうなった。

 でも女子3人というのはだいぶきつい気もするけど。


 当日

 朝、何もない休日ならお昼前まで寝ているけど、今日は7時に起きた。

 楽しみすぎてアラームの音よりも早く起きた。こんな気持ちいつぶりだろう。

 小学生の時に北海道に行く日の朝か、ユニバを行った日の朝か。

 昨日必死に決めた服を来て全身鏡を見た。自分で見た感じ似合ってると思う。

 あまり使い慣れないアイロンで、髪の毛を少しだけセットした。癖っ毛がいつもよりもマシな気がする。

 お気に入りの鞄に、勉強道具を入れ、家を出た。朝から俺の鼓動はうるさい。

 

 最寄駅に着くと、約束していた葵先輩はすでに着いていた。

 歩いていると俺に気づいたようで手を振った。

 少し走って先輩の元へ行った。

「おはよー今日は頑張ってね。」

「はい。ほんとに来てくれてありがとうございます。」

「いいのいいの。じゃあ早く行こ。」

 そう言って俺たちは電車に乗り込んだ。

 こういう時はこうして、と恋愛情報を教えてもらいながら向かった。

 話をしているとすぐに電車がホームに着いた。


 改札を出て、少し歩いて図書館に入った。

 約束していた一階のカフェ前に行くと、莉子と莉子の友達がいた。

 ドキリと胸の音が鳴る。莉子だ、と。

 葵先輩に目配しをして、莉子の方へ向かった。先輩は少しだけ楽しそうだった。

 改めて思うと話すのは初めて。勝手に好きになられた莉子はどんな気持ちなんだろう。

 そんな考えがふと浮かんだ。いやいや、今はそんなこと考えたくない。

「えっと、三浦蓮です。莉子…だよね?」

 体の温度が上がる気がした。

「うん。蓮君と、琴音先輩のお友達…ですよね?」

 戸惑いつつ、莉子はそう返した。俺たちは小さく頷いた。

 練習試合とは違う、長い黒髪ロングをサラッと下ろしていた。

 クリっとした大きな瞳、小さい顔と口。優しい笑顔と透き通るような可愛すぎる声。

 こんな国宝のような莉子と話せている俺は幸せ者だと思う。

「私は、莉子の友達の葉菜です。」

 莉子の隣に立っていた少し小さめの彼女はそう言った。

「じゃあこんなところでもあれだし、行こっか。」

 莉子はそう言って先陣をきった。莉子はどんな子なんだろう。そんな気持ちで胸がいっぱいだった。

 俺は莉子と葉菜さんが進むのを、葵先輩と着いて行った。お互い何を話したら良いのか分からず、ちょっと気まずいけど。

 3階に上がり、4人席に座った。一番奥が葉菜さん、その隣に莉子、その前に俺、その隣に葵先輩。

 お互いの顔を見たり、そらしたり、気まずい時間になった所で、葵先輩が話題を作った。

「ねえねえ、中2ってさ、今何の勉強してんの?」

「私たちの方は、数学は証明で、英語が不定詞とかです。」

 葉菜さんがそう答えた。

「えー懐かしいね。うちの学校も一緒?」

「はい、両方一緒です。」

「そうなんだ。じゃあ分かる人いっぱいいるじゃん。先輩もほら、ここにいるんだし。早く宿題終わらそ。」

 そう言って先輩は数学の教材を広げ始めた。俺も数学をすることにしよう。

 先輩の言葉一つで少しだけ柔らかい空気になった気がする。


 勉強を始めて30分程が経った。

 いまだに俺は莉子や葉菜さんと話すことができていない。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、葵先輩と葉菜さんが部屋を抜けた。トイレに行くと言って。

「今日はさ、遊びに誘ってくれてありがとう。」

 2人が部屋を出て、すぐに莉子はそう言った。

「いやいや、こちらこそ急に誘ったりなんかして、めっちゃ申し訳ない。」

 緊張して上手く話せているか不安だ。

「ううん。私なんかとLINE交換したいって言ってくれて、たくさんやり取りしてくれて、こんなにも優しい人はどんな子なのかなってずっと思ってた。だから今日は会って、話せて私は幸せ。」

 優しい笑顔で莉子はそう言った。胸の奥がじんと熱くなる。

 急に連絡先を交換され、遊びに誘って、向こうの気持ちなんか考えずに勝手に恋した自分を、莉子の言葉を聞くまでは後悔していた。

 でも、そんな俺を受け止めてくれた。

 あぁ、俺は莉子が好きだ。それは片想いじゃないと信じたい。

 少し前に恋バナをしたことを不意に思い出した。

 確か、俺が聞いた時、好きな人は特にいなくて彼氏もいないらしい。これはもしかしたら…。

「そんなこと言ってくれてほんとにありがと。ねえ、これからさちょっと抜け出さない?ここを。」

 えっ?と、言い、莉子は戸惑ったような表情をした。

 その後すぐに笑顔で静かに頷いてくれた。俺が一目惚れした人は優しくて可愛い人に間違いない、そう確信した。

 テーブルの上に少しココ離れます、と書き、屋上に出た。

 屋上は、暖かい日差しが差し込み、芝生とたくさんの花が広がっていた。

 周りには誰もいなかった。少し早く来てよかった。

「ねえ、莉子。」

「うん。蓮、どうしたの?」

 歩みを止め、莉子がこっちを向いた。“君”はもうどこか遠くへ飛んでいったようだ。まるで漫画やアニメの世界に見える。

 もう決心は決めた。

「練習試合で見つけた時からずっと好きでした。付き合って下さい。」

 右手を差し出した。

 恥ずかしさで体全体が熱くなる。顔や耳は赤くなり、手をグッと握っている左手は、手汗さえかいている。

「はい。私なんかに一目惚れしてくれて、たくさん私を愛してくれる蓮が大好きです。よろしくお願いします。」

 そう言って俺の手を取ってくれた。顔をゆっくり上げると、いつも通り優しい笑顔があった。成功した実感があまりないけど。

「じゃあみんなのとこ戻ろっか。」

「うん。」

 そう返事して、手を繋ぎ直して、みんなのところに戻った。


 もちろん葵先輩は驚き、喜んでくれ、葉菜さんも喜んでくれた。

 どうやら、2人は2人にさせるためにトイレに行くと言って抜けたらしい。優しい2人だ。

 こんなにも好きな莉子への気持ちは、勝手なんかじゃなくて、


 両想いだった。

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勝手に恋して 山口甘利 @amariyamaguchi

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