勝手に恋して
山口甘利
一.ただ君の姿に
出会いは部活だった。
その日はバトミントン部の練習試合で、俺の学校に来る日だった。
体育館の中は知らないユニフォームが混ざり、いつもと違う空気が流れていた。
その中の1人に目が止まった。ゼッケンを見ると“篠原”と書いてあった。
少し背が低めで、髪をぴっしりと結んでいた。なぜかその雰囲気に惹かれてしまった。
プレーを見ているふりをして、何度も目で追ってしまった。
─こんな感情は初めてだった。
学校からの帰り道、篠原さんのことが知りたくて、家が近い西野葵先輩と帰ることにした。
「久しぶりだね一緒に帰るの。何、なんか悩みでもあるんでしょ?」
いつも通り感が鋭い。葵先輩は、いつも悩みを聞いてくれる優しい先輩。
「実は一目惚れしたかもで。」
「え、もしかして今日とか?」
葵先輩が驚いた顔でこっちを見た。
「はい、練習試合に来てた、篠原って子に。ずっと目で追ってしまって。」
俺の言葉を聞き、少し黙った後にやりと笑った。
「それは一目惚れだね。私さ、向こうの学校に友達がいるから下の名前とかLINEとか聞いてみるね。」
胸が高鳴った。
「ほんとですか?」
「ちょっと待って、今LINEする。」
そう言い、葵先輩はポケットからスマホを取り出した。
自分でもよくわかるぐらい心臓の音がうるさかった。
葵先輩がスマホを操作するのを見ながら、何度も深呼吸をした。
「うん、今送った。すぐ返ってくると思う。ほら。」
風のような速さで返信がきた。葵先輩の友達は村瀬琴音という名前らしい。
(葵:篠原さんって向こうのチームにいるよね?ちょっとその子について知りたくてさ。下の名前とか教えて。)
(琴音:篠原莉子ちゃんのことかな?多分。下の名前は莉子ちゃん。何かあったの?)
(葵:うん!多分、その子!なんか私の後輩ちゃんがさ一目惚れしたみたいでさ。笑)
(琴音:え!そうなの!莉子ちゃん可愛いからね。で、うちは何したらいい?)
(葵:LINEとかもらえない?)
(琴音:ちょっと聞いてみる!待ってて。)
横で見ている俺の心臓はバクバクしていた。こんな優しい先輩が2人もいて幸せだなと思う。
数分後。
(琴音:莉子ちゃんからOKでたよ!すぐ送るね。ちなみにその一目惚れした子の名前は何て言うの?)
(葵:ありがとう!!三浦蓮君。覚えといて!蓮と繋げて良いってことだよね?)
(琴音:蓮君ね、わかった!うん、そう!向こうにまた色々聞いとくね。)
(葵:ありがとう。)
葵先輩がこっちを見てニコッと笑った。
「良かったじゃん。私めっちゃ応援するから!」
「ほんとにありがとうございます。先輩がいなかったら何も出来なかったです。村瀬先輩にもお礼を伝えといて下さい。」
「うん、分かった。じゃあLINE送ったから確認して。」
スマホを開き、LINEを見ると“莉子”と書かれていた。
胸の奥から込み上げてくるこの想いをどうすればいいのだろう。
家に着き、布団に潜った。
すぐに連絡先を追加し、さあ何を送ろうか。
“はじめまして。”とかかな。
“俺のこと知ってますか?”は気持ち悪いし、
“一目惚れしました。”なんて言えないし。
色々な言葉が頭に浮かんでは消えていく。
何も送らないという選択肢はない。勇気を出して打ち込んだ。
(蓮:急に追加してごめんなさい。さっき練習試合した〇〇中の三浦蓮です。)
送信ボタンを押すのが怖かった。向こうに何て思われるのかが。それでも勇気を出して送った。
既読がつき、返信がきた。
(莉子:はじめまして、なのかな?LINE交換してくれてありがとう。篠原莉子です。)
顔が赤くなった。その一文を何度も見返してしまった。
すぐに返したいのに何から話せば良いのか分からない。
聞きたいことはたくさんある。
“どこに住んでるんですか?”とか、
“好きな人はいるんですか?”って聞いてみたいし、
“推しはいるんですか?”とかも聞いてみたい。
(蓮:急なんですけど、何て呼んだら良いですか?)
(莉子:んー莉子でいいよ!私は蓮君で良い?)
君付けで呼ばれるなんて思ってなかった。心臓の鼓動はおさまらない。
(蓮:うん、じゃあ莉子って呼ぶね!莉子って推しとかいる?)
(莉子:知ってるかわかんないけど、Lumiereってグループかな。男性のバンドグループなんだけどさー逆に蓮君は?)
(蓮:そのグループ聞いたことあるかも!俺はDouce Luneってグループかな。結構有名だから知ってると思うんだけど。)
(莉子:あー知ってる!ルネねー莉子も何曲か知ってるよー)
一人称が莉子、それが可愛すぎるなと思った。たった少しだけのやり取りしかしていないけど、それだけで本気の好きに近づいてる気がした。
その後も好きなアニメやドラマ、俳優の話をして、終わった。
少しの時間だったけど、その時間が幸せすぎた。
明日からも絶対LINEしたい、そう思った。
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