第十話 寂しい背中と温かい背中
私がお手洗いから戻ってくるとさっきとは違って静かに燃えているふたりが待っていた。
「ましろちゃんってしーちゃんとハグしたことあるの?」
「一応ありますけど、あれは先輩が駄々こねるから仕方なく」
突然そんなことを聞かれるのであんまり考えずに答えてしまった。
「そっか……じゃあ私がキスしてって言ったらしてくれる?」
「翠なに言ってるの!ダメに決まってるじゃん!」
翠先輩がそんなことを急に言い出すので、紫音先輩が必死に止めようとしている。
「どうして急にそんなこと言い出したんですか?」
「しーちゃんがましろちゃんとハグしたって自慢してくるから……」
翠先輩は元カノが幸せ自慢してくるのがつらかったんだ……
だけど、好きな気持ちよりも嫉妬心が大きい状態でキスをしてしまうのは嫌だ。
「そんな理由ならしません」
周りと比べるんじゃなくて、お互いの好きな気持ちを確認して自分たちがしたいタイミングでキスしたい。
「ごめん……私帰るね」
翠先輩がひとりでエスカレーターの方に向かっていく。
「待ってください!」
足を踏みだして追いかけようとすると、後ろから紫音先輩が抱きしめてくる。
「ましろちゃん、今は私の彼女でしょ?」
「……」
私にはこの一瞬でどちらかを選ぶことはできなかった。
翠先輩の背中はどんどん遠くへ行ってしまう。
嫉妬心でキスして欲しくない。
心からの好きって気持ちでキスして欲しい。
それだけ伝えればよかったのに。
「紫音先輩、私も帰ります」
「じゃあまた学校で会おうね」
◇
「モフ太、どうすればいいのかな?」
真っ直ぐ伸びて寝ているもふ太をなでる。
翠先輩はきれいな人で一緒にいるとドキドキする、これからもいろんな思い出を作っていきたい。
だけど紫音先輩との関係も壊したくない。卒業までこのまま笑顔で過ごしてもらいたい。
すぐに答えを出すことは難しそうだ、頭を冷やすためにゆっくりまぶたを閉じる。
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