夢の中のトイレ
キックミラキス
第1夜 夕焼けの教室と夢
あのな、教室がめっちゃオレンジ色に染まってたんだよ。夕焼けで。照明なんてついてないし。そこに俺と、友達が机で話してるわけ。んで、窓際にクラスの女子二人組が縦笛のアンサンブルやってんの。リコーダーってやつ。で、この4人以外、誰もいない。静かだなーって。…あれ?俺ら、さっきまで何の話してたんだっけ? 全然思い出せないや。
んで、女子二人のリコーダーの音が耳に付くわけよ。何度も聞いたことある曲だし。…ん? なんか俺、意識がぼんやりしてるっていうか。いつからここにいるのかも、さっきまで何してたかも、まったくわかんなくて。今この瞬間から、急に意識が始まった感じ? 変なの。
そしたら突然、廊下から「おーい!」って呼ばれたのな。担任の先生の声だ。いつも通り、不機嫌で怒ってるっぽい雰囲気だから、ビビッて飛び上がって廊下に駆け出したわけ。
出てみたらさ、クラスのみんながリコーダー持って廊下に一列に並んでるじゃん! さっきまで窓際でリコーダー吹いてたあの女子二人も、さっきまで俺と話してた友達も、ちゃーんと列に並んでる。女子何人かが俺の方見て、ヒソヒソ何か言い合ってクスクス笑ってるし。うわ、見られてる…。
担任の先生、ほんと俺のこと目の敵にしてるんだよな。めちゃくちゃ嫌ってるの、オーラでわかる。んで、先生に気に入られてる連中も、当然俺のことイジっていいターゲットだと思ってるし。最悪。
先生が「なんでまだ教室にいるんだ! みんな並んでるじゃないか!」って叱るの。その瞬間、ハッとしたんだよ。あ、俺もリコーダー持って並ばなきゃいけないんだ、って。完全に忘れてた。マジかよ。
だから小走りで教室に戻って、ランドセルから自分のリコーダーを引っ張り出して、列に滑り込むわけ。前にいた友達が振り返って、「これからリコーダー合奏で体育館行くんだって」って教えてくれた。何の曲やるんだ? 俺、吹けるのか? …ま、吹いてるフリしとけばいいか。適当に。
列が動いて下足室に行くと、みんな靴ベラ使って革靴に履き替えてるんだよね。スニーカーじゃなくて革靴? なんで? その時は疑問にも思わなかったんだよな。アホだろ俺。
で、みんな、自分専用の靴ベラを一人一本ずつ持ってるみたいなんだ。…あれ? そういや俺も、配られたような…気がする? あっ、やべえ! 忘れた! だからまた慌てて教室にダッシュで戻るの。二度目。マジでダサい。
教室に戻る途中で、思い出したんだ。「あ、こういう演奏会とか、クラスの出番が来るまで舞台袖で待機しなきゃいけなかったな」って。そしたら急に、もう一つ閃いたわけ。
「あっ! 今のうちにトイレ行っとかないと、しばらく行けなかったらヤバイじゃん!」
ってな。だからダッシュでトイレに直行したんだよ。
…ん? そこがまた変なんだよ。小学校のトイレなのに、教室みたいに広くてさ。ドラム缶を斜めに切ったみたいな、変な形の便器が、ポツンポツンと床に置いてあるの。見渡すと窓も教室みたいに大きくて、一番左側はバルコニーに出るみたいな掃き出し窓になってるし。トイレの窓なのにカーテンかかってて、風でヒラヒラ揺れてるし。なんかおかしいだろこれ。
変な便器、いくつかあるんだけど、無造作に置いてあって。そのうちの一つ、素材は陶器っぽいんだけど、中覗いたら誰かのおしっこみたいなのが溜まってて…うわ、キモい。使う気ゼロ。
そこで俺、なぜか思いついたんだ。「あの掃き出し窓の外に向かって放尿すればいいんじゃね?」って。窓の外はすぐ下が土の地面で、校舎の裏の細い未舗装の通路みたいなとこ。で、その先は崖になってて、下に町が広がってて、すごい見晴らしだった。小学校高台にあるんだな、って。
で、急いでチャック下ろして、外に向かって立ちション始めようとしたわけ。いざ始めてすぐに、もう一つ閃いちゃったんだ。
「今、下の町の家の窓から誰かが見上げたら、俺がおしっこしてるの丸見えじゃん!」
それに、
「今、誰かがこの校舎裏の通路通ったら、横からおしっこの水筋見えちゃうじゃん!」
って。だから慌てておしっこ止めちゃったの。まだ出てる途中なのに。
特に尿意があったわけでもないのに始めたおしっこだったはずなのに、途中で止めたら、無性に残りを出したくなっちゃって。むずむずする。
仕方ない。やっぱりあの変な便器を使うしかない。最初に見たやつはダメだから、別の便器を探してみる。中覗いたら、さっきのよりもっと汚くてキツいのが溜まってて…無理。一つ一つ見て回って、やっとキレイな便器を見つけた時は、もう限界だったから、ガーッと残りのおしっこを出したんだ。すごい勢いで。
「靴ベラ取りに行くだけなのに、こんなに時間かけてたら怪しまれるよな」って焦るし、「早く戻らないと置いて行かれる!」ってパニックだったから、思いっきり一気に放尿したんだよ。必死。
ほっとしてトイレ出たら…廊下真っ暗。誰もいない。ガーン。
慌てて他の子を探して廊下をウロウロしてるうちに…目が覚めた。「あれ? ベッドの中じゃん」って気づいた瞬間、もう一つ思い出した。
「待てよ! さっき、トイレでおしっこして、めっちゃリアルに出す感覚あったぞ!」
あの放尿の感覚だけは、妙にリアルに体に残ってたんだよな。
もう全部終わってて、布団の中はあったかい…いや、あったかすぎる? ああ…。
目が覚めてから思ったよ。マジで。なんで夢の中じゃ、あんな不自然なことばっかりなのに、一度も「これ夢だろ」とか「おかしい」って思わなかったんだ? アホか。
だって俺、中学二年生だぜ? 小学生ですらない。だから、まず小学校にいる時点で夢だと気づくべきだし、なんで革靴履くんだ? 小学生に一人一本ずつ靴ベラ配る? そんなんありえんだろ? 他にもおかしいことだらけなのに、一度も疑わなかった。ほんと、夢の中の自分はバカだな、って呆れたよ。
中学二年にもなると、おねしょする頻度はもう激減してたからな。この失敗、ホント久しぶりで。夢だと気づかなかったっていう心理的ダメージがでかかった。それに、夢の中のトイレでおしっこして、目覚めたらおねしょしてた…っていう、あの典型的なおねしょパターンだったから、よく覚えてるんだよね。ほんと、情けない。
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