数日後、美里は学校のグラウンドの隅で草をむしっていた。

くうぅ。なかなか抜けん。草むしりさせるなら、鎌くらい用意してよね。あと軍手。

その日、美里は朝から貧血気味でふらつく感覚があった。それで念のため、体育を

見学していたのだった。

しっかし、見学者に草むしりさせるって何なん？

体調が悪いから見学なのに、ちょっとその辺の草むしっといてって、てっちゃんは！

（鉄原先生のあだ名）

最初は座っていた場所で手の届く範囲で草をむしっていたが、いかんせんやり出すと止まらない性格なので、気が付けばそこらへんの草をブチブチ抜いて、美里の周りだけ雑草がなくなって、どんどん綺麗になっていった。

すごい勢いで草を抜きながら、道具があったらもっとできるのにとぼやいているのである。

そんな時、美里の背後から声がした。

「あれ？美里ちゃん。草むしりしてるの？」

どこかで聞いた場をふわっと優しくさせるような声

私は今草むしりで忙しいんですけど、誰だっけ？

ちょっと眉を寄せながら振り返った。

｢もっ、本川先輩！」

そこにはクロッキー帳を持って微笑む先輩がいたのだった。

「あっあの、えっと、たっ体調不良で体育見学してて、そしたらてっちゃんいや、鉄原先生が草でもむしってろっていうので…」

美里は手をパタパタさせ、アワアワしながら言った。

「へぇー。てっちゃん言いそう。でも体調悪い人の勢いじゃなかったけど、大丈夫？」

キラッとした黒目がちの瞳と形のいい唇、それを見ただけで、急に美里はくらっとしてきた。そしてそのまま膝をつき、ペタンと座り込んでしまった。

「美里ちゃん、大丈夫？」

びっくりした先輩が美里を覗き込む。

「だ、だいじょうび。」

無理してめちゃくちゃ草をむしっていた疲れとかっこいい先輩に話しかけられたプレッシで美里の頭はぐるぐるになっていった。

「俺、保健室に送るよ。立てる？ほら、手出して。」

先輩が私に屈みながら手を差し出してくれる。すごいシチュエーションだよ、こりゃ。

さらに美里の頭はぐるぐるで、ショート寸前になった。

その時

「みー！どうした大丈夫？立ちくらみでもした？」

るいがグラウンド方から駆けつけてきてくれた。

200mの測定中だったらしく、先生がストップウォッチを持ちながら

「おーい！浅川何してる。お前、タイムゼロになるぞ！」

と遠くから叫んでいる。

るいは先生の方向を振り返って

「先生〜！見学者が立ちくらみを起こしてまーす！ここで。

　僕、保健室連れて行きます。」

「あー？そういえば、柿崎が見学してたっけ。お前なんで見学したのにそんなに張りって

　草しってんだ？」

草むしり頼んだのは先生なのに、ひどい言いようだと美里は思った。

｢わかったー。浅川は次の時間のときに計測な。じゃあ次〜。」

てっちゃんは美里を心配するでもなく、次の生徒の計測に進んでいった。

「るい〜。」

思わず涙目になりそうになる美里。

「あー、もう頑張りすぎたから。誰も見てないのに、こんなに草むしって。本当にもう。

　まあいいや、とにかく立てる？」

すっと形のいい白くて長い指先を向けて美里に差し出した。

なんとかその手をはっしと両手で掴んで、美里はるいに立ち上がらせてもらう。

起き上がるとまたくらっとふらつきそうになるのを何とか踏ん張った。

ちょっと肩でぜーぜー息をしていたが、落ち着くと

「ごめん、保健室まで付き添ってくれる。大丈夫、歩けるから。」

おんぶしようとしてかがむるいに言った。

いや、さすがにそれは目立ちすぎるわ。

美里はちょっとふらつきながらもゆっくりと歩き出そうとした。とりあえずるいの体操着のシャツの裾を掴んでみる。

ふと後ろを振り返ると、本川先輩がるいと美里を見ていた。

「美里ちゃん、保健室でゆっくり休んで。とにかく体に気をつけて。」

優しい先輩の声かけに何か答えたいけれど、何も言えずただコクコク頷く美里だった。

「ヒロミくん、美術の写生の時間だった？ごめんね、うちのみぃが心配かけて。

　この人、自分の体力わかってないんだよね。本当に〜。」

「いいよ全然。ちゃんと保健室まで連れて行ってあげて。じゃあね。」

軽く手を振り、ヒロミ先輩は他の2年生たちの方へ去って行った。