第7話 変態薔薇男と勝負なのじゃ……
俺はヒスイと出会ったその後も、連日、港区のダンジョン攻略を続けた。
先日ヒスイを助けた件では、余計なお節介だったということもあってか、信仰はほとんど上昇しなかった。
その後は淡々と魔物を打ち倒してダンジョン攻略を続けていったが、他の冒険者と出会うこともなく、信仰はほぼ横這いだった。
とはいえ、チャンネル登録者はじわじわと伸びて行って、50人をついに超えていた。
【¥500】〈今日のプリン代〉
「おほーっ! お賽銭ありがたいのじゃ……よき信者に恵まれてわらわは幸せじゃ……」
探索者協会の設立した配信プラットホームでは、動画を通して探索者への寄付するスーパーチャリン機能が搭載されていて、どんな弱小チャンネルでも最初から利用できる。熱心なファンからは何度か小銭程度のお賽銭を貰うことがあった。
信仰はさておき、こういうところでも配信を行うメリットはあるというわけだ。まあ、以前のチャンネルでは一度も貰ったことなど無かったが。
視聴者からの厚意に手を合わせて感謝を述べていると、狭いダンジョンの通路の先に、他の探索者がいることに気が付いた。
「ふっ……ファンの皆。次の獲物が来たようだ」
その男を一言で表すなら……真っ赤だった。
赤い大きなつば付き帽子には白い薔薇が刺さっている。
皮のブーツやベルト、白いシャツを除いて、騎士の正装のようなその衣服とマントは、帽子と同じく深紅に染まっていた。
男にしては長い金髪をたなびかせたその姿は、絵本に出てくる騎士だか王子だかのような美形ではあったが、現代日本においてそれを目にした場合は……凝ったコスプレお兄さんといった感想が真っ先に出てくるだろう。
「なんじゃ、ありゃあ。目がチカチカするのう……」
「諸君! 見たまえ。あの邪悪な角、そして禍々しい尻尾! 油断を誘う美しい幼子の皮を被ってはいるが、間違いなく邪悪な悪魔の類だ」
「お? なんじゃ? なんか滅茶苦茶失礼なことを言われた気がするのじゃが?」
「おそらく、蛇……あるいはトカゲの悪魔に違いない。はは、落ち着き給えよ。この『薔薇の貴公子』クレイン・マッカートニーが、今宵も美しく敵を討ってみせよう」
「今は昼じゃが?」
クレインと名乗った真っ赤な男が鞘から取り出したのは、レイピアと呼ばれる剣だった。細い刀身は斬り合うためではなく、しなって攻撃をいなし、致命的な刺突の一撃を打ち込むことに特化している。
クレインは無駄に美しい姿勢で、胸の前でレイピアを構えた。戦うと言うよりは演劇でも始まりそうな勢いだ。
「おい、落ち着くのじゃ。何か勘違いしておらぬか? わらわは探索者じゃ。ほら見てみぃ、ここにドローンが」
「聞くな! 悪魔の甘言だ! 貫け、我がレイピア! 食らえ、ブラッドローズ!」
クレインからは数メートル離れていた……はずだった。
しかし、クレインが勢いよく体重を乗せて踏み出すと、その距離は一瞬でゼロになった。恐ろしく速い踏み込みと、同時に繰り出される全体重を乗せた刺突。それはまるで弾丸のような一撃だった。
「おわっ!? いきなり何をする! 話を聞かんやつじゃな!」
素早く横に跳躍して、クレインの一撃を避ける。
「避けた……? まさかな。まぐれだろう。貫け……ブラッドローズ!」
「おわぁっ!? じゃから一旦話を!」
この尻尾は見た目上は邪魔かもしれないが、案外役に立つこともある。例えば、空中での重心移動だ。尻尾を上手く回せば、身体をくるりと回して無防備な空中でも体勢を変えることができる。
身をよじった脇腹のすぐ傍を、クレインの刺突が貫く。
外れた攻撃はダンジョンの壁を貫き、円錐状に大きな穴を開けた。
こんな攻撃が繰り出せるということは、おそらくクレインは性格はさておき、A、またはB級以上の実力者には間違いないだろう。
「お、お主! こんな攻撃をよくも他人に容赦なく繰り出せたものじゃな!?」
「ふっ……なるほどな」
クレインは一歩下がると、ずれた帽子をかぶり直した。
「確かに少し実力を見誤ったようだ。悪魔少女。名を聞こうか?」
「悪魔少女ではないわ! 龍神のリューじゃ」
「いいだろう、悪魔少女龍神のリュー」
「悪魔少女龍神ってなんなんじゃ……」
「僕ほどではないが、君にもそれなりの実力があるということは証明された。拮抗した二人が交わった時、解決する方法は一つに過ぎない……」
「お主はわらわの言葉が聞こえたり聞こえなかったりしておるのか? 都合の悪い言葉は聞こえぬのか?」
「それ即ち、決闘!」
「……」
なんだろう、すごく疲れる。こいつと話していると。
「そんな必要は無い……わらわに敵対の意思はないのじゃ……」
「覚悟は決まったようだね?」
「おまっ、ほんと人の話とか、聞いたほうがいいぞよ!?」
クレインは何も答えず、数歩下がり、剣を構えた。
どうやら戦いは避けられないようだ。悪い意味で全然戦いたくないのに。というか関わりたくないのに。
「勝負は一瞬。全力を叩き込む。君もまた、最強の技を惜しみなく魅せるがいい、悪魔少女、リュージンよ!」
「わらわはリューじゃ! このあほんだらがぁ!」
「決闘開始!」
クレインは一歩下がり、自らの体を後ろに反らし、弓を引くように構える。
「この技は超高速に9回の突きを繰り出す! ほぼ同時に空間を制圧する逃げ場のない突きだ! とくと見よ、この圧倒的な秘奥義を!」
「お、おい! 説明をやめるのじゃ! せめて8回とか10回に変更できぬのか!?」
「食らえ……」
「技名をいちいち叫ぶでないーっ!」
「ナイン・ブラッドローズ!!!」
先ほどと同じように、クレインは一気に距離を詰めた。
そして、一撃ではなく、九つの刺突が分身したかのように同時に繰り出される。現実ではありえない身のこなしだが、探索者が習得したスキルは超現実的な力を持つ。
まさしく、このクレインが持つ、最強級のスキルなのだろう。
「ぬぉぉっ! 回避回避回避ぃっ!」
体中に気を巡らせ、クレインの突きにも劣らないほどの早さで、それぞれの突きをほぼ同時といっていいほどの神速で回避する。
最後の一撃を蹴りで横から弾き飛ばすと、俺はクレインの肩に乗って後ろへ回り込んだ。
「人の話を聞かない奴には……」
「馬鹿なっ!」
さすがに秘技を破られて驚いたか?
「僕の美しい服が足蹴にっ!?」
そっちかい。救いようがないナルシストだコイツ。
「天誅じゃっ!!!」
気を込めた尻尾で、後頭部をはたき倒す。
バシンッ! という音を立て、赤い帽子が舞い、クレインは吹っ飛ばされた。
「あぁっ……!」
舞い散る薔薇の花びらと同時に。
「な、なんじゃこりゃ。どこから出てきたのじゃ!?」
もしや帽子の内側に仕込んであったのか?
なんならクレインの悲鳴にすら若干エコーがかかっていたような気がした。どういう技術だ。
〈薔薇舞い散ってるww〉
〈お見事! さすがリュー様!〉
〈貴公子話聞かなさすぎる〉
「おっふ……」
舞い散る薔薇と共に、クレインはダンジョンの床へと横たわった。クレインのキャラが濃すぎて、今までコメントに目が行かなかったが、ようやく配信していたことを思い出した。
「君の勝利だ。認めよう……君は美しい僕を打ち負かした。それ即ち、真なる龍神美少女……だ……」
無駄な一言を言い残すと、クレインはがくっと地面に頭を預けた。
「……なんじゃこいつーっ!?」
クレインと関わった最初から最後まで、その感想しか出てこなかった。
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