時止まらず、日常続く

蠱毒 暦

無題 激励

————数千年に一度、太平洋に現れる絶海の孤島にある古代遺跡。そこの時計台に天女がいて…吾輩は彼女と一緒に生活していた。


ん。どんな生活だったかだと…フハハッ!!!とても愉快で、何者にも代え難い代物であったわ!!!!


行ってみれば分かる。吾輩の体は既に衰えもう行けぬが、お前なら必ず行け…ゲホッ…ゴホッ…!!!辿り着いた暁には、この手紙を…1番上にある、彼女の部屋に……



わたしは双眼鏡を降ろして、歓喜に震える。



苦節10年。わたしのお師匠様以外の冒険家達が口を揃えて、眉唾だと吐き捨てた秘境。


「……っ。」


お師匠様が老衰で亡くなってから、親も学校の友達も何もかもかなぐり捨てて…残された情報を頼りに、ようやく辿り着けたんだ。


遺跡中央にある、天女が住んでいる時計台に。


……


折角だから探索がてら人が消えて、まるで時間が止まったかのような遺跡を見学することにした。


遺跡の中にあった現代風の食べ物っぽいものを試しに幾つか食べてみたけど、どれもまるで出来たての様に温かく…わたしの為に作られていない料理だと知ってるけど、久々の家庭料理に涙を流した。


まっ、そんな事がありつつ、夜になる前に時計台の前に来たけど…鍵が掛かっているのか、まるで開かない。


「よし。」


なので扉の前に、ダイナマイトを設置して扉を壊して侵入することにした。天女がいるなら、この音で気づくでしょう。



ドォォォン!!!!



あくまで、冒険するのが好きなのであって、別に遺跡愛好家じゃないし。


「お邪魔しまーす。」


反応がないのを見るに、事前にライターで火をつけておいたランプが早速、役に立ちそうだ。懐中電灯なんて、長旅に向かないからね。


カツン…カツン


そうして螺旋階段を登っていると、途中にドアを見つけた。外観から時計台を見たけど、部屋を設けられるスペースなんて……


「まあいいや。えいっ…」


ドアを開けると、そこには時計台と同じく、石造りで、家具とかも一式揃った1人用の部屋があって……


すぐに、本棚にズラリと並んだ見覚えのある官能小説の数々が目に入り、反射的に呟いた。


「お師匠様?」


部屋に入り、本棚から本を1冊取り出して…パラパラとめくって…パタンと本を閉じる。


内容はともかく、本の最後のページにお師匠様の名前があった。


間違いない…ここはお師匠様の部屋だ。本当に住んでたんだ。この時計台に。


「眠いし…ここで寝よ。」


翌日。用事を済ませて、外に出て一礼する。


「よし、満足したし退散しよっと。」


馬に蹴られて、死にたくないしね。


……


拝啓 恩人であるポルカ殿へ


手紙を読んでいるという事は、残念ながら吾輩は既にこの世にはいないだろう。そちらは壮健だろうか。


難題を押し付け、周りの者を困らせて追放でもされたかそれともまた、現実逃避をしたくて、この時計台に戻って来たのか。はたまた…約束を律儀に守りに来たか?


真意まで分からない。だがどちらであろうと、私は全て肯定しよう。


進む道なら目の前にある。もう迷うまい。


フハハ!!!悲しむ必要はないぞ。遥か昔…まだまだ青二才の頃、ポルカの天の羽衣を盗んだ者の末路としては妥当だろう。


天の羽衣を返還し別れた後…数千年も天の羽衣を所有していたお陰で、人間よりも長く生きれた吾輩は、人生という名の甘く苦みを孕んだ果実の味を知り、ささやかながら家庭を持ち、お前みたいなめんどくさがり屋な弟子も出来て、その弟子にこの手紙を託せた。


充分、吾輩は恵まれていた。後悔があるとするならば、吾輩が死ぬまでに時計台へ赴き、ポルカとまた会う約束を守れなかったことくらいだ。


人であれ天女であれ誰かが死のうと日常は…この世界の時は決して止まる事なく続いていく。


雑多でありふれていながらも、全て同一ではない、かけがえのない…そんな日々が。


泣いてもいい。蹲って何もしたくなくなってもいい…だが吾輩は信じている。いつか、涙を拭いて前を向くことを。その程度の逆境を乗り越えられないお前ではないと。


怠惰で家事もろくに出来ず、決して未来を見ずに心を閉ざし、自分の責務を全て投げ出して、何もせずに部屋に引きこもって、ゲームやアニメを嗜んでいようが、関係ない。


月日が巡り、精神的に成長した吾輩が、天の羽衣を返すべくお前を探し続けてた頃…この時計台の前で、傷だらけで倒れた盗人の吾輩を介抱してくれた恩人である事実に…変わりはない。


初恋だった相手を叱咤激励して何が悪い?贔屓して何が悪い?何度だって言おう。


吾輩は信じている…と。



故に、ポルカ…お前は———


……



ここへ戻って来た時、最初は扉が壊れてて何事かと思いながら警戒してたけど、私の部屋だった場所にあるコタツの上に置かれた手紙を読んで、その場で崩れ落ちた。


「コジロウっ……」


視界が濁り、両想いだった事への嬉しさや喪失感で、手紙が滲んでいく。


………


……



2週間後…私は手紙を握って立ち上がった。


「もう、大丈夫だから。」

———もう、大丈夫だ。

                   了







                 




























































 

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