日常の怖い噺〈短編集〉其の弍
タカヤマユウスケ
思い出の写真に
中学生の時の出来事だ。
修学旅行から帰ってきた数週後、業者が撮影した旅行中の写真を購入することになった。
サンプルとなる写真が番号とともに壁一面に貼られ、私たちは決められた番号を選んだ。
昼休み、複数人が写真を見ていると、女子の1人が「ひっ」と悲鳴をあげた。
私をはじめとした何人かが、何事かとその子を見た。
女子はある写真を指差している。
私たちがその写真を近くで見ると、そこには女性が映っていた。
制服ではなく、20代くらいの見た目だ。
生徒ではないなと思う。
それよりも目についたのは、その女性の顔面だった。
顔の半分が、赤く染まっていた。
おそらく血だろう、しかしなぜ怪我をした女性が普通に立っているのか、こんな人物がいたならば、その場は大騒ぎになってもおかしくなかったはずだ。
同じ写真に写っていた男子に話を聞いても、特に何かあった記憶はないという。
気味の悪い写真だなと思っていると、別の写真見ている男子が「あっ」と声をあげた。
「これ、同じ人じゃね」
男子がそう言うと、そこにいた全員がその写真を見た。
やはり、顔面の半分を血で濡らした女性がそこに立っていた。
私は、もしやと思い、他の写真をよく見た。
周りの人も同じように、写真を見ている。
すると、やはり、その女は至る所にいた。
集合写真の片隅や、人混みの中、彼女は私たちにストーキングするように、私たちの写真に写り込んでいた。
私たちの教室は阿鼻叫喚に包まれた。
その騒ぎは昼休みを過ぎても収まることなく、担任の授業が始まっても、教室はがやがやとしていた。
最初は軽い叱責で牽制していた担任であったが、何やら様子がおかしいと気付いたのだろう。
「どうかしたのか」と聞いてきた。
同級生の1人が写真に写り込んだ女の話を言った。
担任は、どれどれといったふうに壁に貼られた写真を見に行く。
すると、担任の顔がどこか引き攣った様に思えた。
担任は授業を続けていく。
私たちは、担任が話題に乗ってくれるかと思ったが、普通に授業を再開したことに落胆した。
その数日後、担任が逮捕された。
私たちに直接知らされることはなかったが、その真相はワイドショーで報道された。
担任は、同居していた恋人を殺害したのだ。
被害者は女性で、名前と顔写真がテレビに写っていた。
その顔は、写真に写っていた人物と同じだった。
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