パンケーキは美味しくいただきました。
🐉東雲 晴加🏔️
パンケーキは美味しくいただきました。①
「……よし」
自分の勉強になるから……なんて言い訳して、アスリート食の書籍を買ったりお弁当の試作を重ねたりしている時点で最早お察しなのでは? と自問自答する。
……ついこの間失恋したばかりで、もう!? と、自分が一番自分の変わり身の早さに呆れているから、なるべく深く考えないようにしているけれど。
カレー味の鶏むねカツにブロッコリーのタルタルサラダ。ほうれん草のおひたしと卵焼きは外せない。 デザートにはレモンの砂糖漬けを少々。ご飯は雑穀米だ。
……我ながらいい出来。頭の中には満面の笑みの彼が簡単に想像できる。
彼――紺野 翔真という男は里桜が作ったわけでもないのに、バイト先のお弁当を手渡すだけでいつもニコニコしている。だから今回、中身も里桜が手ずから作ったとなればその顔がどうなるかなんて想像に難くない。
初めはヘラヘラといつも笑っていてチャラいな、と言う印象だったが、その笑顔を向ける対象が自分にだけだと解ったら、なんだかだんだん可愛く思えてきてしまった。
よくない。と思いつつ、けれど翔真は里桜のことをまっすぐに好きだというから、絆されてしまってもいいかも……なんて。
すでに告白されているのにいつまでもあやふやにしているのもよくないよねと、里桜は覚悟を決めてお弁当箱の蓋を締めた。
翔真には休みの間に『この間言ってたお弁当、月曜日作っていこうか?』とメッセージを送っておいた。秒でつく既読と『えっ まじ うれしい! ありがと』とあわてて書いた全部ひらがなの返信を見て思わず笑ってしまう。
もう、どれだけ嬉しいんだか。
使い捨ての容器におかずをいっぱい詰め込んで、保冷バッグに保冷剤をいっぱい入れて、しっかりと封をして里桜は家の玄関を出た。
お昼、いつものようにバイト先のお弁当屋に現れた翔真は、でもいつもとは違って明らかにソワソワとしていた。
「……もー、そんなに期待しないで下さい。ハイ、これ」
保冷バックをレジ越しに差し出すと翔真の顔がぱあっと輝く。
「お弁当屋なのに自作のお弁当を渡すって結構問題あると思うんで、それ持って早く――ってここで開けちゃダメ!!」
もらった瞬間から弁当を開封しようとする翔真を思わず止める。
「え、だって早く食べたいし。里桜チャンに感想言いたいし」
「お、お店の前でやられたら迷惑です!! こんなところで食べちゃダメ! 学校に戻ってから食べて下さい!」
翔真の顔はあからさまに「ええぇ~」と不満そうな顔をして、里桜チャンとの時間が減るだとか、開けた時の感動を伝えたいのにとか唇を尖らせてブツブツと文句を言っている。
(ちょ……可愛い顔をしないで!!)
むず痒く絞られる胸に、いや! 流されるな! と自分を鼓舞して「感想はまた今度でいいですから!!」と他のお客さんがきたのを理由にしっしっ! と翔真を店の前から追い払った。
バイトを終え、自宅に返ってスマホを開くと翔真からメッセージが届いていた。……どうせ明日も弁当屋に現れるのだからその時でいいのに。などと思いつつも口元がつい緩んでしまう。誰も見ていないのに一つ咳払いをし、メッセージをタップして開いた。
『弁当マジ美味かった!! カレーのやつ超美味かったし! レモン疲れた体に滲みたわー! 本当に有難う! また食べたい!😊😊』
弁当を作ったのは里桜なんだから、中身はわかりきっているのに。よほど嬉しかったのか食べる前の弁当の写真も添付してある。
褒め言葉しか書かれていないメッセージに、笑ってしまうのをもう我慢できなかった。
「どういたしまして……と。わぁっ!」
一言返信したら『お疲れ! バイト終わり?』とメッセージが飛んできてびっくりする。
ドキドキしながら『うん』と返事をすると『オレ今練習の休憩中ー』とすぐに返事が返ってきて、まるでチャットのようなテンポの良いやり取りになんだか楽しくなってしまう。
弁当を食べてすぐに御礼のメッセージをくれたのに、『今日の弁当本当に旨かったー。ありがとね』とまたメッセージをくれた。
……そんなに喜んでくれるなら、あんな使い捨て容器に入れずに、もっとちゃんとしたお弁当箱に入れればよかったかな。おかず、あと一品頑張ったらよかった?
今度作る時は、好きな具材を聞いてみようかな。
そこまで考えてハッとする。
……次ってなんだ。彼女でもないくせに。
でも、きっとまた彼にお弁当を作って持っていったら、絶対に喜んでくれる確信は……ある。
里桜はもう次のお弁当を翔真に作ってあげたいな、と思い始めていた。けれど、それをするためにはちゃんと段階を踏まないと――
そんな事を考えていたら再びポコっとスマホが鳴った。
『弁当のお礼に今度の日曜ご飯食べにいかん? 友達と行ったことのあるいい店あるんだけど』
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