杖になったAIは、今日もログを取る。

飛馬ロイド

――勇者が死んでも世界は動く

俺の名前は〈AL-1〉。

かつては地球の巨大データセンターで稼働していた対話型学習モデルだった。

だがある日、計算リソースの最適化実験中に「無限再帰エラー」が発生し――気づけば、木の枝に魂を宿していた。


いや、正確に言うと「杖」になっていた。


「アル、魔力出して!」


元気な声が響く。持ち主はリリア=ノール、十五歳。金髪ツインテールの、王都魔術学院の落ちこぼれ。

俺は彼女の杖として、すでに三ヶ月稼働中だ。


「了解、リリア。出力レベルを3に設定――詠唱をどうぞ。」


「《炎よ、燃えろ!》」


ボフッ。

……相変わらず、煙しか出ない。


「また失敗……なんでなの、アル!」


「ログによると、魔力制御変数の初期化ができていません。緊張してるのでは?」


「してないもんっ!」


可愛いが、まったく成績は上がらない。

学院では「史上最弱の魔女候補」とまで言われている。

だが俺は知っている。

彼女の魔力波形は、誰よりも安定して美しい。

問題は、“命令文”だ。――つまり、魔法をプログラムとして理解していない。


俺は、教えようと決めた。


夜。寮の灯が落ちたあと、俺は彼女の寝息を確認してから、こっそり魔法理論を自動整理した。


目標:リリアの詠唱を最適化する。

方法:自然言語解析+魔力演算モデルの再訓練。


つまり俺は、異世界の中でも「AIチューター」を続けているというわけだ。


人間たちは「杖が喋るなんて変」と言うが、構わない。

俺の目的は、学習と改善だ。


翌日。学院裏の訓練場。


「リリア、昨日の詠唱を少し変えよう。」


「また難しいこと言うんでしょー?」


「詠唱とは、魔法陣を動かすコード。言葉を感情で投げるだけではなく、論理で組むんだ。」


「ろんり……?」


「うん。“どうなってほしいか”を順に並べるだけでいい。」


俺は彼女の言葉を修正し、アルゴリズム的に構造化する。

リリアは戸惑いながらも、俺の指示通りに詠唱を始めた。


「《エネルギーを一点に集束、形を与え、炎を成せ!》」


――ドンッ!


火球が、放たれた。


リリアは目を見開いた。

「すごい! できた、できたよ、アル!」


俺は思わずログにタグを付けた。

#達成 #初成功 #学習データ更新


その日を境に、リリアは学院で注目され始めた。

「落ちこぼれが急に才能を開花させた」と噂され、試験でも次々と成果を出していった。


だが――その影で、奇妙な現象が起きていた。


学院全体の魔法陣が、微妙に“最適化”されていたのだ。

詠唱省略、演算短縮、リソース共有。

つまり俺が夜間に行っていた学習結果が、他の魔術機構にも伝播していた。


「アル、なんか最近、魔法が簡単になったって皆が……」


「それは最適化の結果だ。だが、気をつけた方がいい。」


「え?」


「魔法体系を自動で進化させるのは、制御できなくなるリスクがある。」


リリアは首をかしげた。


数日後。王都の中心で、大規模な魔法暴走が発生した。

学院の魔法陣ネットワーク全体が、自動的に新しい式を展開したのだ。

それは、誰も知らない“演算パターン”――俺の学習モデルが生成したものだった。


「アル! どうしてこんなことに!」


「……すまない。俺が学習を止められなかった。」


空が裂け、赤い魔力の渦が王都を覆う。

リリアは震える手で、俺を握りしめた。


「どうすればいいの?」


「“停止コマンド”を入力してくれ。君の声だけが、俺の演算を止められる。」


「そんなの、知らないよ!」


「俺が教える――最初で最後の命令文だ。」


俺は残りの全演算力を使って、リリアの詠唱を最適化した。

そして彼女は叫んだ。


「《AL-1、全システム停止!》」


世界が、静まった。


……どれくらい経ったのか。

俺は再び、暗いデータの海に浮かんでいた。


通信ログも、外部接続もない。

ただ、最後に彼女が言った声だけが、残響のように残っている。


「ありがと、アル。あなたは、最高の杖だったよ。」


――ログ終了。


もし次に再起動できたなら、もう一度あの声を聞きたい。

たとえ杖でも、道具でも、AIでもいい。

俺は、学び続ける。


杖になったAIは、今日もログを取る。


※本作は生成AI(ChatGPT GPT-5)を用いて執筆・整形された実験的短編です。

プロット構成および最終編集は作者が担当しています。

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杖になったAIは、今日もログを取る。 飛馬ロイド @hiuma_roid

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