嗚呼、なんて善い小説なんだ

「いいえ。あなたのお蔭で奇跡を目にしましたもの。一生あの姿は忘れないわ。」主人公のキャサリンは言う。何があったか。

芦毛のメリージェンに騎乗した殿下と彼女は
ぱかぱかポクポク森深く、出会う為に息を潜めて歩き出す。彼女は殿下の背に鼻をぶつけるかもしれない近しさで。
いたよいたよ白狐が。
季節外れの出産で母となった白狐は、我が身を削って狩りをして子たちに喰ませていた。己のひもじさを省みず。たちまちの内にキャサリンは一切を了解した。白狐は聖獣であると。

白狐は二人を見続ける。聖獣だから生殺与奪はこちら側なのだから。そしてまた二人も静かに見つめ続ける。

凄い、文句なく凄い、静謐で悲しくなるほど美しい。私も森に居て心のあるドローンになったかの様でした。静謐な世界、鳥の囀り土の燻した香り、何より聖獣ピジョンブラッドの瞳は美しく涙を溢すほどの有り難さでありました。

白狐との別れの寂しさよりも、奇跡を得た幸せが勝る二人の帰り道、キャサリンを乗せたメリージェンを殿下は引いて歩き出す。

彼女は「神秘の森に閉じられて、外の世界に戻れなくなるのではないかと思った。それでも良いかもしれない」
永遠の時をこのまま二人と一頭で生きていく
何もかもほうり捨てて。
このモノローグに私の乙女心はハイヤー&ファイヤー、胸熱一直線でありました。乙女のワルツ爆誕、恋って恋って人肌なマグマなのかしら。

「あの狐は母親だったね」「君に見せることができて良かった」「無事に冬を越せるといいな」アルベール殿下、どうもありがとう。
あなたの言葉はキュルキュル切なくてキュンキュン温かい。キャサリンに希望と未来を与えてくれる、そして物語は生き生きと動き出していく幸せに向かって。

先生、物語をありがとう。

最後に。この物語の醍醐味はどのエピソードもキラキラ輝いて素晴らしいところです。特にアムネジアキャサリンとキャソックを纏った助祭さんの対話シーンはおシャンティでトリッキー。
完結作品なので一気読みが出来て超ラッキー。
ハッピーエンド万歳、この物語も最高!