輝く瞳の好敵手~格闘ゲームにハマった彼女が、俺の好敵手になるまで~

足軽もののふ

ROUND.01 格闘ゲームと委員長

 20XX年、春。

 ゲーム会社とプロアマ問わずの数多のプレイヤー、それとスポンサーの努力の甲斐があってか、世は大eスポーツ時代を迎えていた。


 ただのゲームのくせに何がスポーツだとか言われていた時代は過ぎ去って、今や一つの競技として世界中にeスポーツの輪は広がった。(偏見に満ちた時代は俺がガキの頃には終わっていたので、過酷な時代を生きた先人達を尊敬してやまない)


 世間の見る目が大きく変わった理由が何だったかは伝聞でしか知らないが、幾つもの大企業が加わり、ゲーム自体の取っつきやすさの向上、大会のエンタメ性が大きくなった事。ついでに多額の賞金が掛かった大会の存在や、人気配信者達によるリスナーを巻き込んだアピールが影響しているのは間違いないだろう。


 そして最前線で活躍し続けるトッププレイヤー達の存在も当然、大きい。今ではテレビで顔を見ない日はないし、本屋に行けば雑誌に必ず誰かしらの特集が載っている。

 憧れと賞賛をもってして、老若男女問わず誰もがプロゲーマーを目指す――そんな時代だ。




 そんな時代において、俺、伏見春樹ふしみはるきもゲームで上を目指すプレイヤーの一人だ。

 俺が好むのは対戦型格闘ゲーム、いわゆる格ゲーである。


 ゲームという媒体のお陰で、年齢性別問わず純粋な勝負が味わえる。これが一度味わうと、中々クセになっちまうんだ。だから今日も今日とて、俺はお気に入りの格ゲー『ブラカニ』を遊ぶためにゲーセンに足を運んでいた。


 ゲーセンで遊ぶアーケード文化って奴は一度は大きく衰退していたらしいが、ここ数年でまた大ブームを巻き起こしている。いいよな、筐体で遊ぶのって。百円が一瞬で溶けるかどうか、緊張感が違う。

 やはり人は金がかかると、いい感じにヒリ付くもんだ。


 貴重な小遣いとバイト代を筐体に注ぎ込む緊張感と高揚感。

 それを味わいに来たわけだが、今日は思わぬ先客が居た。


「委員長?」

「えっ!? あ、伏見君!」


 光と音の溢れる大型筐体が置かれた場所から、少し奥まった場所にある広場。エリアを区切る様に伸びた通路を挟んで広がるそこには、ビデオゲーム用筐体が背中合わせになってずらりと列を成している。

 通路側すぐの筐体の前に立っていたのは、見知ったクラスメイトの女子だった。


 露骨にびっくりした顔をして俺を見上げる彼女の名前は、星ヶ丘ほしがおか秋帆あきほ


 つい委員長と呼んでしまったのは、彼女が俺のクラスの学級委員長を務めているからである。絵に描いたような真面目さと、朗らかな明るさを持つ彼女は、まさにクラスを代表する光の存在と言っても過言ではないだろう。


 休みの日でも髪型は変わらない様子で、たっぷりとしたボリューム感のある二本の三つ編みを、顔の側面から胸元に垂らしていた。丈の長い淡い色合いのチュールスカートと、ふわりとしたシルエットの白のトップスの、シンプルながらも清楚感のある格好が委員長らしさのプラス材料となっている。

 黒目がちの大きな瞳が、俺と筐体の画面の間を忙しなく行き来していた。


 画面に映し出されているのは、俺の好きな格ゲー『ブラカニ』だ。

 ブラカニとは、対戦型格闘ゲーム『BLOOD NIGHT.carnival』の略称だ。日本のゲームソフトメーカー、アース株式会社が生み出した大人気格闘ゲーム『BLOOD NIGHT』、通称ブラナイ。『BLOOD NIGHT.carnival』はそのブラナイシリーズ最新作だ。通称ブラカニだったりカニバだったり、ブラ祭とも言われている。


 アニメ調な3Dモデルを使った2D格闘ゲームで、使用キャラには美男美女、イケオジ、イケオバ、ショタロリ、ケモ系大集合だ。声優も豪華どころを起用していて、キャラ萌え勢への配慮もぬかりがない。


「邪魔して悪ぃ。ブラカニ遊ぶんだろ?」

「あー……、その、気にはなるんだけど、私、格ゲー遊んだこと無くて……」


 委員長は画面をちらちらと見ながら、どこかバツが悪そうにしている。

 なるほど。まぁ、どれ程格ゲーが世に浸透したとしても、筐体に初めて金入れるってのは緊張するよな。俺もそうだった。分かる。俺は筐体の列の一番奥、壁際の筐体を指差した。


「あれ、CPU戦専用の設定になってるから、初心者でも安心して遊べるぞ」

「そうなの?」

「おう」


 筐体の前まで移動して、委員長に手招きする。

 どこか恐る恐ると言った様子で寄ってきて、委員長は手に持った百円玉を筐体に入れた。


 クレジット投入音と共に、デモ画面からタイトル画面に切り替わる。

 でかでかと映し出されたタイトルロゴを見て、委員長の目が輝いたように見える。取り合えず座るように促すと、委員長は椅子を引いて腰かけた。


 ワンレバー、四ボタンで構成されたコントロールパネルを前にするのも初めての様で、レバーに触れる手付きは覚束ない。懐かしいな~。俺にもこんな時期がありました。


「どのキャラ使うんだ?」

「えっと、ミナヅキってキャラクター。雑誌で見て、気になって」

「あぁ、ミナヅキか。あいつ、あっちこっちで顔見るよな」


 キャラクター選択画面で、ミナヅキにカーソルを合わせる。

 決定ボタンを押して、操作権を委員長に渡して俺は一歩引く。


 クラスメイトの貴重な初格ゲー体験。

 しかもクラスの人気者の、委員長の。


 何だかこの光景がとんでもなく貴重なものの様に思えてきて、俺は少しばかりドキドキしながら委員長の初格ゲー体験を見守る事にした。

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