第8話 MB4気筒
信二はボウラン監督も説得して新しいマシンを得ることができた。燃料タンクの側面には「MB4」と書かれてある。この世界でもアルファベットと数字などは前の世界と共通だ。MBとはマービーの略称で4は4気筒を表している。
部外者をシャットアウトして秘密裏に試してみることになった。
「MB4気筒だ。パワーは比べ物にならない。これ1台しかないから気をつけて走れ!」
ボウラン監督に言われて信二はピットを出て走り出す。なかなか感触がいい。加速もスムーズだ。やがてコーナーに差し掛かる。車体を倒してみたが安定性はいい。コーナーからの立ち上がりスピードも申し分ない。
「これならいける!」
信二は確信を持った。さらにコーナーを攻めてみる。マシンはそれに答えてくれる。やがて最終コーナーを過ぎた。
「さあ、直線だ。トップスピードは・・・」
アクセルを全開にする。みるみる速度が上がって行く。前のマシンとは比べものにならない。もしかしてショウが乗っていたヤマン国のマシンより早いかもしれない。
3周して信二はピットに戻ってきた。彼をボウラン監督やモリスが迎える。
「どうだった? タイムは素晴らしかった」
「このマシンなら申し分ありません。優勝も狙えます」
「そうか。しかし油断は禁物だ。しっかり頼むぞ」
ボウラン監督はこのマシンに希望を見出したようだった。一方、モリスは慎重だった。
「このマシンはまだトラブルを抱えているはずだ。一つ一つ消していかねばならない。何度も乗ってみてくれ」
それから信二は何度もこのマシンを走らせた。細かなトラブルはあったものの、すぐに修正できた。セッティングも煮詰まってきた。実戦に向けていい調整ができていた。
実戦が近づくにつれ、セカンドライダーを務めるメアリーがナーバスになっていた。興奮と緊張でイライラしているようだ。やたらと誰かに当たっている。
「メアリー。今からそんなことでどうするんだ?」
信二が注意しても収まらない。
「シンジは順調でいいでしょうよ! 私はタイムが伸びないのよ!」
「大丈夫だ。その代わりに安定感が増した。セカンドライダーは堅実に走ってくれたらいい」
「そんなわけにはいかないわ。私だって勝ちたいのよ!」
大声を出しておさまりそうもない。そんな時、信二は彼女を部屋に連れて行く。そんな時はアレしかない。
「きっとうまくいく。俺を信じるんだ」
「シンジ・・・」
信二はメアリーをベッドに押し倒して慰めてやる。ベッドの上で快感に酔わせて、しばらくは何も考えられないように。特にレースのことを・・・。すると翌朝にはメアリーはケロリとしている。
「さあ、やる気は出たわ! 今日もがんばるわ!」
だが数日たつと元に戻る。これの繰り返しだ。
「レースでいい成績が残せれば自信がつくだろう。それまでの辛抱だ・・・」
信二はため息をつきながらもメアリーの面倒を見てやらねばならない。
◇
いよいよシェラドンレースの第1戦、マービーGPだ。各国のチームが集まる。各国2台ずつ、計18台で勝利を争う。事前に信二はボウラン監督やメアリーからライダーたちの話を聞いていた。
まずは昨年度1位のボンド国だ。そのエースライダーはマイケルだ。3年連続
前年2位はスーツカ国のロッドマンだ。堅実な走りで各GPでポイントは集めて2位に入った。派手さはないが不気味な存在である。
そしてヤマン国のショウだ。走りは荒っぽいが爆発的な速さを発揮するかもしれない。この男も要注意だ。
その他にも強敵はいる。ランス国のイザベル。女ながらも昨年4位に入った伏兵だ。それで大国との併合を免れた。本国では「救国の女神」と称されたという。
過去最多の優勝を飾った伝統あるイリア国は前年5位だ。国民的英雄のマルコが乗る。最近は低迷気味だが、底力は侮れない。
ルーロ共和国は独裁制を敷く強権の国だ。国策としてこのレースに挑んでいる。優勝して小国の併合を目指しているといううわさがある。乗るのは鉄の女で知られるドロテアだ。
リモール王国は老練ウッドリアだ。小国ながら出場してくる。そのマシンは旧式の単気筒だ。それでもトップを脅かすことがあるほど奮闘している。
そしてシーナ国。前年最下位だ。だが大国であり開発費を莫大に投じているらしい。乗るのは他のチームから引き抜いたカルロスとバーバラだ。発展途上であるが、いつかはトップ争いに出てくるだろう。
これらに信二がいるマービー国が加わる。厳しい戦いが待っているに違いない。
いよいよ予選が始まる。ラップタイムのいい方から、本選での
(やはりマイケルか・・・)
やはりボンド国が頭一つ抜けている。だが走りを見たがそれほど脅威を感じない。
「このレースは俺がいただく!」
信二はこの初戦を狙いに行くことにした。
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