第六節「想い出の公園/朝焼け」

「――今日も、いるかな……二人」


暮れなずむ夕焼けは街を朱く染める。

昼と夜の境界線。

このはるる野市北西――旧道沿いの丘の上にそれはある。


展望台の様なあたしの――〈想い出の公園〉。


公園名はかすれてもう読めない。

土地開発の失敗で公園だけ残された形だけど、

街をいちばん美麗に展望できる公園だって思ってる。

――さて、

自分を〈量産型〉と定義づけたのなら〈主人公〉が存在する。

私の定義した主人公とヒロイン。

主人公の太陽たいよう兄さん。

ヒロインの月子つきこ姉さんだ。


別に血縁ではないけれど、幼馴染で一つ年上の二人。

二人は副会長と書記なので忙しく学校ではほとんど会えない。

なので、

放課後、週に一、二度、ここで二人と待ち合わせするのだ。

夕焼けを横にブランコまたがる二人は今日も待っていてくれた。


「ソラ。そんなにRAINEで急かさなくたって俺たちは今日も居るよ」

「電話苦手だから、わたしはRAINEのが有難いのよ、太陽」


眼鏡に長身で、理知的なハンサム顔の太陽兄。

おでこにロングヘアが光る大和撫子な月子姉。

まるで古き良き昭和の邦画のワンシーンの様で……。

「いやー。SNSをいっちゃん活用すんの、お二人相手だけだもん」

あたしはにひひ、と笑う。


「……いいけどな。生徒会の途中で送るんは勘弁してくれよ」

「そうよ。即返事したくなるものこの人。ふふ」

破顔一笑。画(え)になるしぐさ。

だからこそ。あたしはこの二人の端役でありたかった――

あたしはにまにま笑うだけなんで会話が進まない。


「どうした。会話ふって欲しいのに笑顔だけじゃ駄目だぞ」

「そうよね。相談に乗って欲しい顔してるもの」

「あーわかっちゃう?へへ、ちょいトンデモ過ぎて、どしよっかな」

「珍しいな。いつもは早々に甘えてくるじゃないか」

「えーそこまでじゃないよお」

「やや甘くらいだよね、ソラは」

「むー」

口をとんがらす私。漫画みたいだな自分ってよく思う。


私には母がいない。産まれてすぐに居なくなったらしい。

消息も生死も不明。ゆえに、つまらない揶揄が世間を踊った。

『あの父親だし……』『父が父だから逃げられて……』

父は過去の騒動で有名人らしく、心無い中傷があたしを切り刻んだ。


そこを救ったのがこの二人。

『一緒に遊ぼ?』――手を差し伸べる小さな男女。

何も問わず、微笑みは裏切らない。

その日から闇は祓われた。

あたしの世界はハレに満ちた。

あたしの世界の主人公に――なった。


「そうだ――模型部の部長になったんだって?」

「夜鳩がね、部の主役は君しかってきかないんだもん」

「実際にそうじゃない?」

「夜鳩の方が部長って顔してるよっ」

「そうか?部の主役って感じと思うがね」

「えー……そーか、なぁ」

この現実ときだけは、甘える自分で居させてほしい。


三人で街を駆け巡った日々が――。

あの日から――背中を追いかけるだけの――。

――私が主役でなくていい理由いまだった。


「じゃ、蒼穹は帰るね」

「トンデモ話の方はいいのかい」

「ん。お二人さんの邪魔しちゃ悪いし」

「また妙な気を使いやがる」

「ソラは気になる男の子いないの?」

「ぜーんぜん」

あの人形王子が気になる男子って未来は――ご遠慮願いたいな。


夕日を背に映える――私の主演男優と女優の笑顔。

バイバイと手を振る二人が夕日に消える。

踵をかえした足取りは軽い。

早くも見えた夜空のまたたきにあたしは祈るんだ。


どうか、この幸せな関係が永遠とわに続きますように――

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