妖怪ホームズは怪異殺人の夢を見ない

源朝浪(みなもとのともなみ)

下半身のない女性遺体とテケテケ

「遠いところわざわざすいません、妖怪ホームズさん」

「いえいえ、当探偵社にご依頼いただきありがとうございます。あ、それと。僕、名前は家並いえなみと申します」

「それで、妖怪ホームズさん。今回の以来の件なんですけど――」

「この付近の線路沿いで発見された、下半身のない女性遺体ですよね? それでテケテケさんが疑われてしまった、と。あと、僕の名前は家並です」

「そうなんです。私は何もしてないって言っているのに、警察の方々ってばしつこくて……」

「……まぁ、ここいらはここ数日、雷と土砂降りが続いていますからね~。警察の方々も捜査するのに嫌気がさしているんでしょう」

「確かに雷の音も強い雨音も耳触りではありますけど。それで私を疑われても、それってただの八つ当たりじゃないですか」

「そうですね……。心中お察しします」

「……ただ、私としても、こんな殺人が人間にできるとも思えなくて――。この辺りに、私の他にこんなことができる怪異がいると言うのは聞いたことがないですし」

「ああ。それについてですが。この辺りに何か工事中の現場とかあったりしませんか?」

「何ですか? 藪から棒に……?」

「重要なことです。お心当たりは?」

「……ええと。そういえば、ここから少し離れたところにあった山小屋が、老朽化の問題とかで建て替えのために取り壊されてるって言うのは聞いたことがあります」

「なるほど。テケテケさんは、その工事現場は御覧になりました?」

「見てないです。でも、すぐそこの踏切を大型重機が通って行ったのは見ました。今の大型重機ってすごいんですね。確かにあれなら家くらい簡単に壊せそう」

「そうですね。家屋解体用の大型重機というと、見た目も立派で、デザインも洗練されていてかっこいいので、小さな子どもにも人気があるんですよ」

「……それで、その話と今回の事件。何か関係があるんですか?」

「ああ。そうですね。では、ご説明いたしましょう。誰しも悪い夢からは、早く目覚めて清々しい朝を迎えたいですからね? まぁ、僕は死体発見現場もご遺体も一切見ていないので、あくまで推論になりますが、それでもよろしいです?」

「構いません。それが真犯人究明の手掛かりになるなら……」

「わかりました。まず、被害者女性の胴体の切断方法についてですが、これはそんなに難しいことではありません。何も人間が人力で行わなくても、代わりに力を発揮してくれるものが、現代にはいくらでもありますから」

「と言うと?」

「先ほどお話した家屋解体用の大型重機ですよ。あれなら操作方法さえ分かっていれば、誰でも重いものを持ち上げて、高いところから落とすことができますから」

「重いものを、落とす?」

「はい。例えば巨大な鉄板。工事現場などで大型重機の通り道によく敷かれているものです」

「……はぁ。確かにそう言われると、工事現場にはそういうのが敷かれているイメージです」

「でしょう? 敷かれているだけならただの足場ですが、それを立てた状態で持ち上げて、そのまま下に落としたら?」

「……人間の胴体くらい簡単に切断できそうですね」

「そういうことです。被害者が既に殺されたあとだったのか、何らかの形で意識を失っていただけなのかはわかりませんが。とにかく寝かされた人体に向けて上から立てた鉄板を落下させれば、切断遺体の完成です」

「……なるほど」

「あとは千切れた下半身を片付け、上半身を線路沿いに配置すれば、テケテケさんの似姿の完成……と、いう訳です」

「でも、そんなことをしたら大量の血痕が残ってしまいますよね? それに鉄板の落下音も。それについては――」

「お忘れですか? ここ数日の空模様を」

「あ!?」

「そうです。この地域は数日前から強い雷雨に見舞われています。ただでさえ人口の少ない田舎町の、更にはずれにある解体中の山小屋ですから。雷の音に紛れて鉄板の落下音がしたとしても、そうと判別できる可能性は低いと思います。それに、殺人事件現場で一番の証拠足り得る大量の血痕も、この土砂降りであれば、洗い流すことができるでしょう」

「そんなことが……」

「あくまで可能性の話です。先ほども言った通り、僕は遺体発見現場もご遺体そのものも、工事現場さえ実際には見ていないんですから」

「それでここまでわかってしまうなんて……。さすがは妖怪ホームズさんですね!」

「いえいえ、他人ひとより、少し想像力が豊かなだけですよ。それと、僕の名前は家並いえなみです」

「ありがとうございました! 早速、妖怪ホームズさんにいただいたご見解を警察に伝えて、改めて捜査してもらいます!」

「あの……。だから僕の名前は家並いえなみで――」

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