第2話 出会い

「今日は船長に紹介したい人がいるんだ」


 食べ物とか飲み物を買うためにヨーチエ島に行くよ、ってなった時に言われた。


「紹介したい人って誰?」

「それは会ってからのお楽しみだ」


えー。けち。教えてくれたっていいじゃん! とむくれてみせる。


「ははは、ごめんよ。ほら飴あげるから」

「わーい、やった!」


音よりも速く手のひらを返すと、椅子に座ってるんるんで舐め始めた。


「……ね、良い友達になれるといいわね」

「ああそうだな」


 小さな声でこのようにハーハとトサンが話しているのをノゾミは知らない……。


 ──────


「わぁー! ここがヨーチエ島! すっごーい! おっきー建物でいっぱ〜い」

「どうだ? 出航した島とはまた全然違うだろ?」

「うん、おもしろーい! ねえねえ早く何か買いに行こーよー」


 お店に着いてポシェットからお金を取り出そうと漁っていたら、前に見つけた綺麗なビー玉が飛び出してしまった。


「あぁっ!」


元気なビー玉をちょこちょこ追いかける。追いかけるのに限界が来て諦めかけた時に、それは動かなくなった。あたしと同じくらいの男の子が足で止めていた。なんだこれ、と言った感じで摘んで転がしている。


「そのビー玉、あたしの!」


突然現れたあたしにびっくりした後、ん、と返してきた。


よ、良かった! お気に入りのビー玉無くさなくて。


大きなありがとうを込めてありがとうとニカっと笑ったら急に紅くなって走り出して人混みに消えてしまった。


顔が赤くなると頭イタイイタイ(風邪)になるってハーハが言ってたけどあの子大丈夫かな?


 ちなみにビー玉を追いかけて勝手に走って行ったので2人に怒られたのは言うまでもない。


 ──────


「やあ久しぶり!」

「よー元気だったか?」

「最近調子どう?」

「いいわよ。そっちはどう?」


 目の前にはハーハとトサンとはまた別の男の人と女の人が立っていた。


「ね、トサン、この人たち誰?」

「僕たちとはまた別の船の船員さんだよ。挨拶しなさい」

「ノゾミって言います。こんにちは!」

「あら、敬語使えるのね。凄いわね〜」


この人達が会わせたかった人なのかな。なんて考えていると、


「ほら、隠れてないで出てきて貴方も挨拶なさい」


すると、あたしより少し小さい子がひょこっと顔を覗かせた。どうやら女の人のスカートの後ろに隠れてたみたいで気が付かなかった。


「わ、わたし、ユウミって言います……。よ、よろしく」


言うや否やまたすぐ隠れてしまった。


「ノゾミちゃんごめんね。この子極度の人見知りで」


困ったように言われたけどあたしどうすればいいんだろ。あ! もしかしたら……。


「ねえねえこれ見て見て」


あたしはゆっくりスカートの後ろに回り込んでバッとあるものを握った手を広げる。

 掌は虹色で溢れていた。


「うわわわ、とってもきれい……」


でしょでしょ! やっぱり女の子は綺麗なもの好きに決まってるもん!


「ノゾミ、あっちに公園があるよ」

「えほんと! ユウミちゃん一緒に行こー。そしたらもっとビー玉見せてあげる」

「うん、見てみたい……」

「じゃあ行こう! トサン、ハーハ先に行ってるね!」


 あたしは公園の噴水近くでビー玉をユウミちゃんに見せることにした。


「お水に入れても綺麗でしょ」

「うん。この貝がらが中に入ってるのすごいね。わたしもビー玉欲しいなあ」


お星様を目に宿らせてビー玉を眺めるユウミちゃんを見てたらなんだか1個あげてもいいかなーって。それで……。


「ならそれ1個あげる!」

「え、え、えダメだよ。こんな綺麗なもの。きっと大切なものでしょう?」

「ううん、いいの。お友達になってくれたありがとうの気持ち! プレゼントだから」

「お友達……」


その言葉を噛み締めるように反芻した後ありがとうとビー玉を受け取ろうとした時だった。

 横からひょいと手が伸びたかとそれを奪い去って行った。その腕の主を見ると……。

数時間前にあたしのビー玉を拾ってくれていた男の子であった。


「え、ちょ、返してよ!」


と、必死の形相で取り返そうと手を伸ばす。が、すんでのところで避けられてしまう。ぴょんぴょん飛び跳ねて食いつくあたし。


「ふーん……。じゃこれもーらいっ!」

「じゃ、ってどういうことよ!? 返してよ!」

「へへ、なら捕まえてみろよ」


ぬー、こうなったら絶対捕まえてやる……!


「まて!」


男の子大罪人を追いかけて公園中を縦横無尽に駆け抜ける。


「ちょっと、2人とも危ないよ!」


心配される声も耳には届かない。なかなかすばしっこくて捕まえられない現状に大人を使えればと船員さん達を探すと、公園の隅のベンチで皆楽しくお喋りをしており、助けは望み薄な事を悟った。


くっ、あともう少し……! あっ。


 追うことに集中しすぎて石に躓いた。


「う、う、うわーん!」


痛いし、返して貰えなかったしで涙のダムがついに決壊した。

泣いたことで船員さん達がやっと気づいてこちらに向かって来るのがぼやぼやの視界に見えた。

 しかし到着する前にその人は現れた。


 ものすごいプレッシャーを感じ顔を上げると般若の形相の女の人が男の子の首根っこを掴んで立っていた。


もしかして男の子の船の船員さん? だとしたらどうしよう。ヤバい!


何かをされるのではないかブルブルと震えていると女の人が目線を合わせるように片足をつく。


「ごめんね、お嬢ちゃん。こいつが酷いことして」

「え?」


 意外な行動に驚いて涙が止まる。そんなあたしに女の人は男の子の手からビー玉をひったくって差し出した。


「ありがと……です」

「ほんとにこっちこそごめんよ。あれ、擦りむいてるね。ちょいと見せておくれ」


泣いていてわからなかったが擦りむいていたみたいだ。意識し始めると痛くなってきた。

その人は怪我をした部分をササッと消毒し包帯まで巻いてくれた。


「ほらこれで大丈夫。全く、カイト、この子って子は……。本当にごめんね。言って聞かせておくから」


 女の人は立ち上がると駆けつけていた船員さん達にすみませんと深くお辞儀するとさっきまでの私と対照的に真っ青になっているカイトを連れて帰っていった。

へへ、いい気味とカイトの背中に向かってあっかんべーをしたのは秘密である。


「大丈夫だった!?」


 慌ててトサンとハーハが駆け寄って体をぺたぺた触ってくる。


「ビー玉も返してもらったし、転んじゃったとこも治してくれたよ」


それからユウミちゃんに向き直る。


「はいこれ。お友達改めてよろしくね」

「わたしのために……ありがとう。とっても大事にする!」


改めて渡して2人でクスリと笑い合う。

こっちもあっちの船員さんも優しい雰囲気で初めてのお友達作りは無事に終わった。


また会おうねと別れ、出航する際どこかの船からか大きな怒声がと泣き声が聞こえた気がしたけどそれはまた別の話。










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