第7話



その間にも、母親の背中から再び文字がつらつらと浮かび上がっていく。


“だいたい、今日だって弁当なんて買ってきて何を考えてるのかしら”

“台所だって料理してる形跡は無いし、カップ麺しかないじゃない。男は料理が出来る方が絶対良いんだけど、でもこれ以上言うとウルサイかもしれないし”

“はぁーあ…本当にめんどくさい”


「っ、!!」


俺はそんな母親の心を目の当たりにすると、つい目の前の母親に言った。


「じゃ、じゃあなんでわざわざ俺ん家に来たりするんだよ!そんなに文句があるなら来なきゃいいだろ!?」


空中に浮かぶこの変な文字はもちろん俺にしか見えないのだが、思わず俺は母親にそう言ってしまった。

すると母親は料理をしている手をいったん止めると、体ごと俺の方を向いて口を開く。


「…あら。何なのその言い方は。だいたいあなたがろくに夕飯も作らずに今日みたいにコンビニ弁当ばかり食べてるかと思ってお母さんはこうやってわざわざ料理を作りに来てあげてるのよ。そんなに文句があるのならちゃんと毎日しっかり料理をして栄養をとってちょうだい。もしくは、料理好きな彼女を作って一緒に暮らすことね」

「!!…っ」

「まったく、母親の有難みもわかってないんだから」


母親はそう言うと、また俺に背を向けて夕飯づくりを再開させる。

そんな母親の言葉を聞いて、何も言い返す言葉がない俺。


「…わかったよ」


母親の背後でそう呟くと、今日はとりあえず母親が作ってくれた夕飯を食べることにして、高級弁当は明日の昼飯となった。

…その間も、母親の背中からはまたたくさんの文字たちが浮かび上がっている…。


“いっそ実家に帰ってきてくれたらラクなんだけど”

“文句なら家事が全部出来るようになってから言って欲しいわ”



“あーあ。昔は天使みたいに可愛かったのに”






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