第2話


老婆はそう言うなり、「こっちにいらっしゃい」と俺を店内の一部のコーナーへと案内する。


「これだよ」


そう言って老婆が勧めてくる眼鏡は一見どう見ても普通の眼鏡だが、


「あの…この眼鏡ってどこがとっておきなんですか」


と俺が尋ねると、老婆が自信満々に言った。


「この眼鏡はね、かけると“何でも見えてしまう眼鏡”なんだよ」

「えぇ!?」

「ほら、ポップにも書いてあるだろ。“何でも見える眼鏡”って。この眼鏡はわざわざ視力なんて測らなくていいから、心配しなくても遠くの文字だってはっきり見えるよ」


…何でも見える眼鏡って。

俺はそんな老婆の説明に、今一つ納得が出来なくて問いかける。


「あ、あの…何でも見えるって、つまり何が見えるんですか?ま、まさか…ふ、服が透けて、とか…!」


俺が興奮気味にそう言うと、老婆が笑って言った。


「そんな単純なものじゃないよ。人の“心”が透けて見えるんだよ」

「え…ひ、人の心?」

「そう。人間だれしも抱える心の闇がね、その眼鏡をかければ全部見えるのさ」


老婆はそう言うと、ニヤリ、と笑った。

俺はその老婆の不敵な笑みにゾクリとさせられたが、そのあと老婆が「かけてみるかい?」と言うので、とりあえずその眼鏡をかけてみることにした。

すると、そんな俺に老婆が1つ眼鏡を手に取って言う。


「…この眼鏡はね、かけている人に何だって“合わせてくれる”んだよ。だから、どんな人にも似合わないなんてことはない。眼鏡をかけた瞬間、不思議なことにすぐにその人にフィットするのさ」

「…ま、まさかそんな…」

「ほら、かけてみな」

「…」


老婆のその言葉に、俺は半信半疑でその眼鏡を手に取る。

…どう見ても、普通の眼鏡だよな。

俺がまじまじ眼鏡を見つめていると、横から老婆が「かけないのかい?」というから、内心「せっかちだなぁ」と思いながらも「かけますよ」とその眼鏡をかけた。


しかし、かけた瞬間俺はものすごくビックリした。


「っ…!!?」


な、何だ?この…確かに眼鏡をかけているはずなのに、まるでかけていないかのようなこの軽さ、フィット感。

それに…


「っ、すっげぇ!?俺が今かけてた眼鏡よりはっきり見える!!」


それであって、決して眼鏡をかけていて度数がキツイなんてこともない。

まるで、自分の目そのもので周りを見ているみたいだ。

コンタクトレンズよりも違和感がない。

俺はその不思議な眼鏡をしたまま老婆に目を遣ると、半ば興奮気味に言った。


「すごいっすねこの眼鏡!!」

「いいだろ?今ならそれ、たったの500円だよ」


俺は老婆からその驚きの価格を耳にすると、迷うことなく即決するように言った。


「買います!!」





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