第四章 ノアの記憶 ― 失われた真実 第47話 革命の兆し
記憶の奥底で、真実は息を潜めていた。
———
旧横浜チャイナタウン跡地
ノアポイント本部—ロンの宝石屋
古びた革表紙のノート。インクが滲み、震えるような筆跡で書き連ねられた文字。
「……これは、ノアの記憶」
ジンがページをめくるたび、紙面に文字以上の“映像”が浮かび上がる。それは日記でも、記録でもない。——封じられた真実そのものだった。
9月24日(日)
祐也達の奪還計画は失敗に終わり、ノア•ポイント計画は暗礁に乗り上げた。
「何にせよ。現場で誰も捕獲されなかったことは、
不幸中の幸いだ。それにこのノートは、間違いなく確かな収穫だった」
ロンはタバコを吹かし安堵の顔をした。
紫音がモニターを確認。
「今のところあちらにはまだ、ブレスレットのことはわかってない。アオイがアンドロイドを作動させた。正常に動いているみたい」
「機を見て、自力で抜け出すつもりみたいよ」
不安な顔で紫音がシステムを閉じた。
「味方はたった一つのブレスレットと、三体のアンドロイドか。次は見つかったら、いくらアイツらでも記憶をいじられるだろう。しばらくは様子を見るだろうがな」
「こちらも、今までのように気楽にコンタクトを取ることはできないよね」
マナが絶望的な顔をした。
「バレて解析されたらパァだ。とりあえず、勾留後すぐアオイと話し、誘拐未遂で泳がされている。と言っていたから監視は厳しくなるが、今のところ、何かされることは無いだろう」
「よかった。彼らは被害者ということになっているんだね」
ミナとマナは顔を見合わせた。
「心配なのはΩnovaだ。彼はお前らを売るかもしれん」ロンが頭を抱えた。
「…いや、アイツは不器用だけど、友達を売る奴じゃない。なぁジン」
千斗が間伐入れずに応える。
「ああ、レンに俺らの気持ちは通じたと俺は信じてる。頭のいいヤツだから、祐也達とうまく接触できればいいけどな」
「彼は赤梅の戦闘員になれば、逆に、今度は政府側の仲間になるわけだし、話す時間も増えるはず」
マナも少し、顔色が戻ってきた。
「何か、このノートにヒントがないかしら。隼人が急遽、青梅になったのは、ただの体調不良なんかじゃない。なにか特別な事態が起こったに違いないわ」
———
7/10
また、BH(ブルーホライゾン)内で、あの少女の姿をみた。タケルには見えていない様だ。
7/15
あの子が、夢の中にまで出てくる。気分が悪い。今日はトレーニングは午後から出る。
7/22
紫音の夢をみた。彼女は、元気なのだろうか。
もうじき家に戻ることができる。あと1週間だ。
7/23
だめだ、あの少女が俺を連れて行こうとする。Ωnovaから致命的なダメージを喰らった。眠るのが怖い。
7/25
気がついたら、ラボに連れて来られていた。部屋に戻されホッとした。何の検査をされたかわからないが、身体が動かない。
7/27
今日は試合だった。タケルにフォローされ、勝つことがなんとかできた。月末になれば、マナと両親にあえる。紫音に会いたい。会いたい。会いたい。
まだ戦える。大丈夫。
7/30
また、ラボに連れて来られていたのか、、ひどい頭痛がする。頭に数字が浮かぶ。食べものを吐いた。明日は家族に会える。紫音会いたい。俺を心配しているだろう。
7/31
成績が悪いため、帰宅を一度取り消された。試合に勝てば、再許可をもらえる。勝つしか無い…勝つしか。
8/16
九月の大会が終われば、この世界から解放されると言われた。最後の帰宅になるに違いない。このノートだけは、絶対に紫音に渡さなければ。
8/22
昨日薬を投与された。頭が朦朧としている。
ノートは持ち出せそうもない。
明日、紫音に会うのが最後だ。目に焼き付ける。
マナ、家族をよろしく頼む。俺の命綱、紫音からもらったが破棄する。それが一番だ。
———
涙の様な跡で、字は滲んでいた。
全員が悲しみで言葉を失う。
「ミナさんの歌を録音したものを送ったの」
紫音がポツリと呟いた。
「彼の心の支えだった、ノアポイント」
「それを破棄するなんて、やっぱりお兄ちゃんは、心神喪失していたのかな」
ノートにはそれ以降、文章はなく謎のアルファベットや数字の羅列が並ぶ。
ジンは、祐也から渡されたノートを見ながら、
首を傾げる。
「いったいこれは何のことを書いているんだろう。
何かのキーワードかな? アイノプトって」
『AINNOOPT』
「最後に会った日、隼人は赤梅、青梅の施設やシステムだけでなく、この監視システム全てのことを調べ始めていたと話していた」
紫音が涙をため、そう呟いた。
「———なぁ、これ!!
AINNOOPTアナグラムじゃないか?」
ジンが興奮する。
『NOAPOINT』
「ミナの歌だ。ノア・ポイント。またこの言葉だ。
お前の歌には、いったいどんな意味がある?」
ロンが深くタバコを吸い込み、声を顰めた。
「今から伝える話は、決して口外無用。そして、聞いたらすぐに忘れてしまうんだ。いいな」
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