第2話 不穏な空気


この日も

午前中、ルナは静かに庭の小道を掃く。


落ち葉を払いながら、通りの向こうで子供たちが遊ぶ声を聞く。


平和な町の景色――しかし、ルナの鋭い瞳はいつもと違う何かを捉えていた。


窓辺のアルバが羽を広げ、低く唸る。

「……妙な空気だ」

ルナの心に直接響く声。


「誰かが近づいている……のかしら」

街の野良猫がそわそわと後ろ足で立ち上がる。


「人間ではない、違う気配だ」

アルバの指摘にルナは頷き、そっと庭の奥へ姿を消す。


町の人々は、気配に気づく者は誰もいない。


ルナが姿を隠しても、日常は続き、子供たちは無邪気に笑い、八百屋の老婦人は野菜を並べる。


しかし、ルナは溜息しか出ない。


「昔、恨みを買った相手かしら……?」


彼女の記憶の奥底で、千年前の戦いの残影が光を帯びて浮かぶ。


午後になると、町外れの古書店の軒下で野良猫が何かをじっと見つめている。


ルナはその視線を追うと、道の角に人影を認めた。


人間のようで、人間ではない――何か異質な気配。


アルバが肩で小さく羽音を立てる。

「近づいてきてるな」

ルナの瞳が冷たく光る。


「久しぶりだわ……楽しそうだけど……騒がしくなるんなら魔法使って消したらいいわ」


その夜、ルナは書棚の奥で静かに魔法の準備を整える。



フクロウのアルバは背後で羽を広げ、夜の町を見下ろす。

「今夜は長くなるかもな」

「大丈夫。秒でケリをつけるわ」

ふたりの心の声が静かに交わる。


――ひっそりとした日常の中で、魔女の影が少しずつ揺らぎ始めた。


敵の気配はまだ遠い。しかし、静けさの裏に潜む闇は、確実に迫っている。



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