第4話 至上の愛
聖女がついに降臨した。
眩い光に包まれ、王宮の祭壇の前に現れたのはまだ頑是ない幼女だった。
降臨に立ち会った王妃とクリスティーヌ修道院長が幼女をあやすが泣き止まない。
神官長が神託を試みれば、幼女は間違いなく聖女である事、聖女の力を発揮するには愛し慈しんで育てられなければならず、その愛を正しく理解できてこそ力が発揮されるとの言葉を授かった。
王太子殿下は呆然と立ち尽くした。
彼は漸く、自分の都合の良い未来しか考えず、相手の気持ちを無視した善意を押し付けて大切な従弟を傷つけた事に思い至った。
■■■
聖女降臨の日、今日も柵越しに手を取り合い逢瀬の時間を慈しむように静かに佇むフォルリ侯爵とソフィアの元に、王妃とクリスティーヌ修道院長が未来の聖女である幼女を抱いてやってきた。
万能の力を持っていると言われる聖女が、まだ言葉も覚束ない幼女であることに二人は驚き、愛情をもって慈しんで育てなければ聖女としての力を発揮できない事を静かに聞いていた。
王妃は、幼女を王宮ではなくこの修道院でクリスティーヌ修道院長と共に慈しんで育てていくと二人に告げた。
クリスティーヌ修道院長は、ソフィアならこの子を正しく聖女として導けるのではと考えており、ソフィアが修道院を尋ねる際にはこの子を可愛がって欲しいと伝えた。
それを聞いて、フォルリ侯爵はソフィアに尋ねた。
「私たち二人で育てないか」
■■■
幼女はかつての大聖女の名を受け継ぎ、アンヌと名付けられた。
国王と王太子は自らの行動を悔いてフォルリ侯爵夫妻に誠心誠意謝罪し、王太子はその地位に留る事が許された
アンヌはフォルリ侯爵夫妻の愛に溢れる家庭で健康にすくすくと育っていった。
王太子と無事に王太子妃となったギーズ公爵家のマリアンヌ嬢たちをはじめとした王家の保護の下、クリスティーヌ修道院長からは聖女としての在り方を学びながら力強く成長していった。
養女として引き取られたフォルリ侯爵邸で、仲睦まじい侯爵夫妻に慈しまれ愛されて育った聖女アンヌは、驕らず優しく素晴らしい淑女となった。
聖女としての力を発揮し、国教会を背負って立ってからは立派に神殿を率い、国民を癒し、国に尽くした。
フォルリ侯爵はどんなに周囲に説得されても懇願されても、聖女アンヌに自らの体を癒す事を赦さなかった。
子には恵まれなかったが、生涯ソフィアだけを愛し、最後の瞬間まで二人で静かに手話で語り合い、最愛の妻と愛義娘の聖女アンヌに看取られて穏やかな顔で旅立っていった。
程なくして後を追うように旅立つソフィアの臨終の際、光の中で生前と同じ姿で寄り添う二人を目にした聖女アンヌは、至上の愛の形として心に焼き付けた。
聖女アンヌの祈りの糧となった二人の愛は、後に大聖女となったアンヌの公伝として後世に語り継がれることになる。
至上の愛の形 お伝 @potyon
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