第3話 愛を取り戻すために
フォルリ侯爵は託されたノートを持ち帰って、使用人たちとも一丸となり必死にその日のうちに出来る限り手話を覚えた。
この功績を盾にソフィアを自分の元に戻してもらえるよう陛下と王太子殿下の説得に当たるためだ。
急ぎ陛下と王太子殿下に謁見し、手話があれば自分だけでなく社会の役に立つこと、何よりソフィアがそばにいてくれる事が、体が癒える事よりも重大な事を訴えた。
しかし王太子殿下は納得しなかった。
体が癒えたら手話も必要ないし、普通の生活が送れるようになればソフィアの事など忘れるはずだと。
フォルリ侯爵は毎日修道院を訪れた。
馬車の苦痛に耐え、激しい頭痛を堪えてソフィアを呼ぶ。
柵から手を伸ばし、ソフィアの名を呼び続けた。
禁を破り手を取り合って柵越しに何時間も佇む二人を咎める者は誰もいなかった。
■■■
王妃はフォルリ侯爵の話を聞き、修道院で二人の姿を目にして決断した。
人の話を聞かず、人心を分かろうとしない王太子が王となれば臣下は離れていくだろう。
数年前から王太子あてに主大国の王配の打診が続いている。
王太子が婚約者を深く愛している事は周知の事実であり、それを考慮して断り続けていたが
この度了承の返事を検討している事を告げた。
抗議する王太子に王妃は言い放つ。
「大国の王配の話ほど名誉な事はないであろう。そなたのため、国のためなら婚約者は身を引くのが当然の事。王配になって、大国を支えるやりがいのある生活が送れるようになれば婚約者のマリアンヌの事など忘れるはず。」
これでもなおフォルリ侯爵夫妻を引き離すというのなら、独裁国となる未来を避けるために動くつもりだ。王位継承権を持つものは他にもいるのだから。
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