夏の終わり

諸井込九郎

夏の終わり

むしが、死んでいる。

とんぼが死んでいる、夕立を孕んだ雲の下で。

せみが死んでいる、熟れた緑のにおいの中で。

みみずが死んでいる、灼けついたアスファルトの上で。

昨日まで、視界の端を掠めていた、とんぼが。

さっきまで、声だけを嫋々と響かせていた、せみが。

今の今まで、潜んでいることさえ気取らせなかった、みみずが。

今ではもう、ただ黙って、足元に転がっていた。

夏が、終わるのだ。

むしたちは死んで、僕は夏が終わることを知った。

だから僕は秋を迎える覚悟ができる。

時間の流れと向き合う、心の準備ができる。

だとすれば、僕はこの、生きていることが当たり前の世界で死んだとき、

誰かに、何かを伝えられるだろうか。

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夏の終わり 諸井込九郎 @KurouShoikomi

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