「私は、春に出会った」
@setsu0217
「私は、春に出会った」
ねえ、愛菜。
あなたと最初に出会ったあの日のこと、私は今でも忘れられないよ。
入学式の朝、私はパンをくわえて、学校へ走っていた。
映画みたいな、ベタすぎるシチュエーション。だけど、
私の人生には、あまりにも場違いな光景だった。
裏社会に生まれて、ずっと“普通”から遠ざけられてきた私にとって、
その朝は“夢”みたいだった。
――だからこそ、逃げるように走っていたのかもしれない。
そして、あなたとぶつかった。
見た瞬間、驚いた。
「……え?」って声が出たのは、私の方だったと思う。
だって、そっくりだったんだもん。髪の感じも、背の高さも、表情も。
なのに――目はまるで違った。
あなたの目は、まっすぐで、柔らかくて、あたたかかった。
私はあの瞬間、きっと“救われた”んだ。
「友達になってくれて、ありがとう。」
そう言いたかったのに、私はずっと言えなかった。
私の生きてきた世界に、“友情”なんて存在しなかったから。
信用しても裏切られる。
優しくしたら、つけ込まれる。
それが、この世界のルールだった。
でも――あなたは違った。
笑ってくれて、ふざけてくれて、名前を呼んでくれて、
同じ時間を「楽しい」って思ってくれた。
私はそんなあなたと一緒にいるうちに、
どんどん自分の“嘘”が苦しくなっていった。
「私、もうすぐ死ぬの。」
そう告げた夜、私は本当は泣きそうだったよ。
でも、愛菜、あなたは――泣かないでいてくれた。
泣きたいはずなのに、目を見て、私の言葉を受け止めてくれた。
「私のこと、忘れないで」って言ったのは、
あなたなら絶対、忘れないって思ったからこそだった。
私の時間は短かったけど、
あなたと過ごした日々は、どんな人生よりも意味があった。
裏社会で生きてきた私にも、こんなにも“まっすぐな幸せ”が訪れるなんて、
思ってもみなかった。
私は、あなたに「生きて」ほしい。
どんなに悲しくても、
誰かを失っても、
あなたの笑顔が、誰かの心をまた救うと信じてる。
私は、あなたに出会えて、本当に幸せでした。
ありがとう。
さようならは言わない。
春の風に、そっとこの想いを託すだけ。
(終章)
「私は、春に出会った」 @setsu0217
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