第4話:京洛×大乱×聡明丸

「ここが、京都、ですか……」

「なんだ、残念そうな顔をしているな」

 あれから数か月、あるいは概ね半年か。次郎たちは無事に京洛へ到着した。到着した、のはいいのだが……。

「ここ、本当に京都ですか?」

「ああ、如何にもここが、主上もおわす京の都だが」

 京洛は、焼け爛れていた。否、焼け爛れていたなどという生易しい表現ではない。上京と称される、いわゆる内裏もある方の京洛はほとんどまる焼けであった。一応、再建も進んでいたのだが、かなりの土地が空き地と化しており、刀傷や槍傷、矢の跡どころかいまだに矢の刺さっている柱すらも存在していた。

「かつては雅な処だったんだがな……先の大乱でかなりの区画が攻撃を受けてな。

 今でこそ再建は進んでいるものの、数年前まではひどい有様だった……」

 遠い目をして語る伊勢。だが、次郎の耳目には異なる形相に映った。と、いうのも……。

「先の大乱って、大東亜戦争では京都府は原爆投下予定地だったから敢えて空襲を行わなかったってどこかで聞いたんですが……」

「? 何の話だ。先の大乱と言えば、応仁文明のことに決まっているだろう」

「…………」

 次郎は、若干苛つき、同時に非常に呆れた。京都の連中は、いまだに先の大乱を応仁の乱だの鳥羽伏見だのとほざいているのか、と。だが、それにしては焼け跡が新鮮であった。ただ、そもそもの話である。

「……まったく、細川も山名も、意地を張り過ぎた。もとを糺せば、畠山の家督騒動なのだろうが、まさか公方様があそこまでだとはな……」

「……公方様?」

「なんだ、今の公方様が誰か知らないのか? ……まあ、関東方面では関東の公方がおわすから無理もないかもしれんが……」

「……公方って、なんのことです?」

「……どういう意味だ。まさか関東に住んでいて関東府を知らんわけではあるまい」

「…………」

 次郎は、何となく嫌な予感がした。その予感は、非科学的ではあったものの、同時にその予感は、何となく正しいような気がした。

「ところで、次郎。一応ここまで送って来たが、やはり目的地は但馬か?」

「ああ、いえ、折角だし、もう少しついて行っていいですか?」

「……まあ、乗り掛かった舟だ、もう少しならば構わんが……、それは私の被官に掛かるということか?」

「ひかん?」

「……まあ、もう少しならば客人として置いておいてもいいが、その内仕事を割り振るからな」

「は、はい」

 次郎は、まだ気づいていない。あるいは無意識的には気付いていたのかもしれないが、次郎の年代はすでに科学教が普及して久しい時代である、その、非科学的、否、超自然的な現象が発生して、自身がその当事者であることは、まだ、認められなかったのだろう……。

 そして、京洛につき、伊勢の屋敷に入ってしばらくした頃のことである。伊勢同様に黒髪が艶やかで、次郎よりも今少し幼いであろう美少女が、伊勢の屋敷を来訪した。前髪を真っ直ぐに整え、眉を剃り上に描き、服こそ地味であるものの髪の長さからして美少女であろうと考えられる彼女は、伊勢と何やら話し込んでいた。そして、帰ろうとした折に、彼女と次郎の目が、偶然遭ってしまった。……その美少女は、何か目を輝かせて伊勢に話の続きをした後、伊勢が止めるのも聞かずに次郎の元へ歩いてきた。

「ねえ君、伊勢の客人だったっけ。名前は?」

「…………次郎だけど」

「そう、次郎。……うん、僕は聡明丸って言うんだ。こっちは妹の八百やお。近々妹は嫁ぐ予定なんだけど、相手がねえ……」

「細川様、それはもう仕方の無いことではありませんか」

「それは、そうなんだけどさあ……」

 どうやら、眼前の美少女は、同じく美少女然とした妹の嫁ぎ先が不服らしい。次郎も、興味本位で聞いてみた。

「? 相手、誰なの?」

「赤松政則。相手が、というより、播磨はまだ安定してないから不安で……」

「姉様、過保護すぎ」

 ……赤松政則、赤松惣領家最後の当主にして、結果論とは言え後代まで「本朝悪人手本」と称される、悲運の人物であった……。

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