配達妖精シドとシス

@natsume634

第1話 永遠ってあるの?




「永遠なんて、あるのかしらね」

「システィーナは無い派? ぼくは案外有り派」

「ええー?」



 私の独り言を拾ったのは、愛くるしい顔立ちの真ん丸な紫色の瞳をした男の子。桜色の癖毛に触れ、その柔らかさを堪能する。髪を触れられても嫌な顔をしない男の子——シドが私の手に触れた。



「システィーナは永遠を信じていたもんね」

「そうでもないかも」

「そうなの? だって、システィーナは婚約者がずっと自分を好きでいてくれるって信じていたじゃないか」

「それも案外そうでもないかも」

「ええー?」



 私と同じ疑問の声を上げるシドに笑う。時計を一瞥し、そろそろ休憩の終わりが近付いていると知ると私はシドを立たせた。私達が現在いるのは森の中の小屋。大人二人住んでも窮屈ではない広さがある。

 大人の私と子供のシド。一見、親子に見えるだろうが生憎と血縁関係はない。抑々、種族すら違う。



「ほら、仕事に行きましょう。あまりゆっくりし過ぎているとまた長老に叱られちゃう」

「分かったよー」



 ぷくうっと頬を膨らませたシドの頬を指で突くと萎んだ。見てて面白いから数度程繰り返し、機嫌が治ったらしいシドと小屋を出た。



 ——世界で一、二を争う大国クライズ帝国。由緒正しき家柄で建国当時から存在する名家の一つマイツェン公爵家の次女として生まれたのが私だ。

 薄い水色の髪と赤みがかった紫色の瞳はマイツェン家に代々受け継がれる色。私の姉ローズマリーも同じ色を持っていた。二歳差の私達は仲が良かった……とは何とも言えない。私は悪くなかったと思っている。姉が私をどう思っていたかまで知らない。


 儚げで庇護欲が満載の姉は異性にかなり好意を抱かれやすく、私は身体を動かすのが大好きだった為令嬢らしくなかった。

 マイツェン家は末の弟が継ぐ事となっており、姉よりも先に私に婚約者が決まった。

 エドガー=ロマンス公爵令息。マイツェン家と肩を並べる名家。エドガー様はロマンス家の後継者。私は必然的に未来の公爵夫人になると決まった。



「システィーナ。今日は何処を回るっけ?」

「もう。ちゃんと覚えていてよ」

「えへへ、眠かったし、長老の声って子守歌みたいに聞こえちゃんもん」

「もんって……」



 見た目は愛くるしい男の子だけれど、中身は二千歳を超えるとんでもお爺さん。

 人間、獣人、人魚、妖精という四つの種族が生きる世界で最も長寿なのが妖精。姿形を自在に変えられる妖精は見た目子供もいれば年老いた老人もいる。シドは見た目子供、中身二千歳というとんでも妖精だ。実年齢を聞いた時は仰天したのは言うまでもない。

 可愛い子ぶっていても正体を知っているだけに素直に可愛いと思えない。



「今日はクライズ帝国。しかも帝都よ」

「システィーナの実家があるね」

「そうね」

「帰りたい?」

「全然。シドと仕事をしている方が楽しいもの」



 実家での生活が悪かったとは言わない。

 帝国一美しいと評された姉や将来有望な跡取りの弟にばかり目を向けられ、中間子の私は放置に近かった。両親の関心がなかったとは言わない。ただ、二人に比べると……差が出来ていた。

 寂しくなかったと言えば嘘になるけど、深刻に捉えなかったのはエドガー様のお陰だった。



「量は多くないね。実家の様子でも見に行く?」

「シドは気になるの?」

「まあね。人間とこうやって関わるのはシスティーナが久しぶりなんだ。ぼくは気になる」

「そうねえ……」



 どうしようと悩みつつも足は止めず、二人で暮らす小屋の前まで着いた。妖精族の住処は世界各地にあるが何処も結界に覆われ、妖精族以外が入るとなると彼等の許可を得ないとならない。

 私達が暮らす小屋は働き者の妖精族が数多く住む村の近くにある。基本自然を好む妖精族は森の中や山の中、海の近くに住んでいる事が多い。

 妖精しか取り扱っていない珍しい商品を世界各地に配達、時に販売訪問するのが主な仕事。私とシドは配達をメインにしている。訪問販売になると商品の知識や営業トークが必須になってしまい、私にはまだまだ早いと判断したのだ。因みにシドは訪問販売も完璧に熟す。


 長老に貰った今日の配達リストに目を通すと知っている名前があった。 



「これって……」

「どうしたの?」



 手元を覗いたシドがある名前を見て真ん丸な瞳を更に丸くした。



「あれ。システィーナの姉の名前があるね」

「え、ええ。で、でも、どうして」



 リストの最後に書かれている名前に私の姉ローズマリーの名があった。


 ——ただ。



「家名がマイツェンなのはどうして」



 エドガーは私ではなく、姉のローズマリーを選んだ。なのに、何故姉の家名が生家になっているのか。



「行ってみようよ。システィーナが知りたいことがきっと分かる」

「そう、ね」



 気付くとリストを持つ手が震えていた。恐怖からくるものじゃない。


 ただ。


 ただ……。



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