第4章 試練の奈落
時間は少し遡る。
NOVAたちが「Xゲーム グループリーグ」で熱い戦を繰り広げていたころ、JVBL運営は裏で重大な調査に着手していた。
――不正ツール行為の摘発。
V.B.Lのシステムを調べていた解析班は、通常ではあり得ない成長ログを発見していた。
特定のプレイヤーだけが、試合に出場していないにもかかわらず短期間でスキル値を跳ね上げている。
さらに深掘りすると、「成長リスト」と呼ばれる不正なファイルの痕跡が見つかった。
そこには、外部裏組織から報酬を得て「不正成長ツール」を開発し、外部裏組織へ引き渡し、密かに売りさばいていた事実が記されていた。
運営トップは即座に査察チームを結成し、内部調査を進めた。
査察は、システムへのアクセス履歴の洗い出しから始まり、社員のログイン時間、個人端末の解析、さらにはV.B.L外での金銭の動きまで追及した。
浮かび上がったのは、JVBL内部の一部スタッフが裏で不正開発に関わり、闇ルートに情報を流していたという揺るぎない証拠だった。
ただし、すべてのプレイヤーが故意に不正ツールを行ったわけではなかった。
例えば――
・自動的にスタミナ回復時間を短縮する程度の補助ツールを使った者。
・知らぬ間にツールをインストールさせられていた者。
・仲間に勧められ半信半疑で試したりしたが、実際にはゲームでは、使用しなかった者。
運営は板挟みだった。
「全員を永久追放すれば、V.B.Lそのものの信用が揺らぐ」
「だが、不正を黙認すれば競技性は崩壊する」
出した結論は――条件付きでの悪質性の低かったプレイヤーのID復活。
ただし、その条件は厳しかった。
・コートネームの変更。
・メンタルパラメータのリセット。
・一定期間のスキルパラメータのマイナス補正。
そして、復帰の機会を与えられたプレイヤーには、かつて「ユウタ」と呼ばれたプレイヤーがいた。
――新しいコートネームは「YUTA」。
◇ ◇ ◇
YUTA――現実では高校生。
しかし彼のリアルは、決して華やかなものではなかった。
教室では常に空気のような存在。
体育では背中を押され笑いの標的にされ、昼休みには机を離される。
いじめ、孤立、逃げ場のない日常。
そんな彼にとって唯一の拠り所が、V.B.Lだった。
どんなに嘲笑されても、バーチャルの世界では対等に戦える。
バスケットボールに触れたこともほとんどなかった彼が、V.B.Lに惹かれたのは偶然であり、必然だった。
最初は当然スキルも低かった。
けれど、何度も何度も挑戦し、倒されても立ち上がり続けた。
――その執念こそが、彼の「メンタルパラメータ」を人並み以上に高めていたのだ。
メンタルから影響を受けてスキルが補正される補完関係。
それが、かつてのユウタの強さの正体だった。
だが今は違う。
メンタルはゼロ。強みを完全に奪われた状態で、彼は再スタートを切った。
「……また、ここからか」
ログイン直後のYUTAは、震える手を見下ろした。
1on1の練習コートに立つも、以前のように強気に攻められない。
相手の鋭い視線ひとつで、足がすくみ、アバターの動作も鈍い。
ボールを奪われ、シュートを外し、何度もコートに膝をついた。
それでも諦めなかった。
――もう一度、彼女の隣に立つために。
最初は、自分がアドバイスする立場だったのに、 いつしか、彼女のプレイから勇気をもらうようになった。
かつて並んで戦った日々、何度も救われた言葉、笑顔。
――だが今は、不正ツールの影に縛られる自分が顔を出し、心を蝕んでいく。
それでも。
「負けても立ち上がる」――その姿勢こそ、かつての、そして今のユウタを支えたものだった。
YUTAは今日もひとり、コートに立つ。
倒され、蹴散らされ、負け続けても――。
彼は諦めなかった。
いつか必ず、かつての自分、それ以上になり、もう一度彼女の前に姿を現すために。
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