V.B.L Ⅱ -Virtual Basketball League- | 第二部 黎明の絆
蒼井 理人
第1章 新たな扉
放課後の教室。部活動を終えた仲間の笑い声を横目に、遥は小さく息をついた。
リアルのコートでは、背の高い選手に弾き飛ばされ、どうしても埋まらない壁を感じてきた。
けれど今は違う。リアルでの「遥」も、バーチャルでの「ノヴァ」も、どちらも自分の大切な舞台だ。
二つのコートを行き来する中で、彼女はようやく“楽しむ”ということを知り始めていた。
ログインした先で待っていたのは、V.B.Lの1on1モード。
「ノヴァ」という名で生きるその場所で、遥は“理想の自分”を作り上げ、数え切れない程の試合を戦った。
ひとりで磨き、ひとりで挑み、ひとりで勝ち取る――でも孤独感はない。
だが、いま彼女の視線の先には、巨大なホログラム広告が浮かんでいた。
《3×3ワールド、正式始動――世界へ続く扉は、ここから》
「……3×3」
ノヴァは呟く。胸の奥で、期待と不安が入り混じる。
ルールは特に変わったところはなく、リアルでの3×3とまったく同じ。
よりスピードと個の力が求められる一方で、仲間との呼吸が勝敗を左右する。
1on1で勝ち続けてきたノヴァにとって、まったく新しい世界だった。
――一人では越えられない壁も、仲間となら乗り越えられる。
そんな思いが、心のどこかに芽生え始めていた。
◇ ◇ ◇
ロビーに立つノヴァは、人の波を見渡した。世界各地からログインしたプレイヤーたちが、次々と3×3の練習コートへ消えていく。
だが、彼女は足を踏み出せなかった。
「……仲間、か」
自分に足りないものは分かっている。
すぐに熱くなりすぎる自分を制御できる「ゲームIQ」。
そして、フィジカルに振ったぶんリアルでの持ち味であるオフェンス力が少し薄まっている。だからこそ、鋭い突破力を持つ仲間が必要だった。
頭では理解していても、どうやって出会えばいいのか分からない。
◇ ◇ ◇
数日後、ノヴァは即席のチームに誘われ、JVBLプラクティスコートに立った。
「よし、やろう」
試合開始のブザーと同時に、ノヴァは全力でドライブを仕掛ける。ディフェンスを2人引き寄せ、仲間へノールックパス――のはずが。
「えっ……!」
味方はタイミングを読めず足を止め、ボールは虚しく転がった。
相手の速攻は決まり、スコアは一気に開く。
結局、試合は惨敗だった。
「悪いけどさ、ノヴァ。君と合わないわ」
「俺もだ。君の独創性のある動きにはついていけない。」
試合後、仲間はそう言い残し、ログアウトしていった。
残されたノヴァは、コートの真ん中で立ち尽くす。
1on1では感じなかった、孤独の重さが胸にのしかかった。
だがその重さこそ、仲間を求める気持ちの芽生えでもあった。
◇ ◇ ◇
数日後。ロビーの大型スクリーンに、突如ニュースが流れた。
《速報:不正ツール疑惑で追放された一部プレイヤー、条件付きでID復活へ》
「えっ……」
周囲がざわめき、ノヴァも思わず目を凝らす。
心臓が跳ねる。
――ユウタ?
かつて1on1の頃に出会った刈り上げ気味の人懐っこい青年。勝てなくても諦めず、笑いながらも立ち続けたプレイヤー。
彼なら、一緒に壁を越えられるかもしれない。
ノヴァは必死にログインリストを探した。だが、そこに「ユウタ」の名前はなかった。
「……やっぱり、来ないの?」
悔しさと寂しさを噛みしめる。だが同時に、彼が隣にいないことが、こんなにも大きな空白になるとは思わなかった。
それでも――。
ログアウトの光に包まれながら、ノヴァはふと空を見上げた。
もし再びあの笑顔と交わることがあるなら――その時こそ、もう一度、一緒に戦いたい。
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