第7章 影を超えて

ブザーが鳴り、決勝戦が始まる。

Xの一歩目は雷鳴のように速く、コートを割るドリブル音はまるで大地を震わせるようだ。


「思う存分にかかってきなさい、お嬢さん!」


豪快な声が響くたび、"ノヴァ"の胸が高鳴る。

その声、そして大柄な体から繰り出されるダンクモーション。どこかで見たような――いや、聞いたような――既視感が、心をざわつかせた。


攻防は激しく続いた。


Xは「ハンマー・スラム」でリングを揺らし、コート全体が振動したかのように錯覚させる。

それに対して"ノヴァ"は、低い姿勢からの「ライトニング・クロス」で抜け出す。小柄な体を武器に、Xの懐へ飛び込むような突破だ。


「いいぞ!その動きだ!」


Xは挑発とも励ましともつかない声を放ちながら、不意を突いたスティールでボールを奪い返す。


「なにっ!」

"ノヴァ"も必死に追いすがり、スピンムーブからフローターを放つ。ボールは美しい弧を描き、リングをかすめて吸い込まれた。


「……やるじゃないか!」


大柄なXと、フィジカルに振っているといえ、Xと比べるとそれでも小柄な"ノヴァ"。

力と速さ、サイズとテクニック。

真っ向からぶつかる二つの「バスケ」が、交錯し続ける。


残り数秒。

スコアは、"ノヴァ"の1点ビハインド。


遥は、父の影を意識しながらも、ステップバックからのディープスリーを放つ。


――しかし、Xの巨大な影が立ちはだかった。


「ガード・クラッシュ!」


豪腕のブロックが火花のように弾け、ボールは宙で軌道を逸らされる。

そのままXがボールをつかみ取り、終了のブザー。


決着は、僅差だがXの勝利に終わった。


「……負けた」

膝に手をつく"ノヴァ"の頭上に、陽のような笑い声が降ってきた。


「負けたことは、気にすることはない。お嬢さん!」

Xは胸を張り、親指を突き立てる。


「今の気持ちがあれば、V.B.Lでもリアルでも、君は、まだまだ強くなれるぞ!」

その言葉に、"ノヴァ"の胸は熱く震えた。悔しさの奥で、不思議と力が湧き上がってくる。


ゲーム後、Xはマスクを少しだけ上げ、汗を拭くしぐさを見せた。

その顎のライン、笑い方、どこかで見覚えがある。


「……やっぱり、父さん?」

遥が思わず問いかける。


Xは一瞬、目を細める。

「……昔、私は夢を追っていた。しかし、事故でコートから離れざるを得なかった。」

その声はどこか懐かしく、しかし明るさを失ってはいなかった。


「けれど、夢は形を変えて、ここでまた俺を走らせてくれる。VBLは――第二のコートさ!」

そう言うと、豪快に笑い飛ばし、わざとらしく肩をすくめた。


「Don't think, just MOVE! また、会おう!お嬢さん!」


ひときわ大きな笑い声とともに、Xはコートを後にした。


――やっぱり父だ。

遥は確信しながらも、その答えは心の中に留めた。

胸の奥で、バスケに対する新しい炎が灯っていた。


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