葡萄ふみ

縞間かおる

<これで全部>


 初めてハンスがウチにやって来たのはちょうど収穫祭の真っ最中だった。父さんはまだおどおどしている小さなハンスを抱きかかえ、ブドウがいっぱいの桶に放り込んだ。


 桶の中でブドウ塗れになってへたり込んだ……びっくり顔のハンスに私は大笑いしながら、このの靴を脱がせ腕を取って引き上げ、大きな桶の中で二人手を取ってダンスをした。

 ブドウ踏みのダンスを……


 あれから早5年、ハンスの背はとうとう私に追いついた。そして今年のブドウ踏みのダンスはハンスのエスコート!!

 私は水色のワンピースの裾をたくし上げ、ハンスは、ワンピースとお揃いの生地のシャツだけを羽織り、ステップを踏む。


 今の二人には狭くなってしまった桶の中で、お互いの素足が触れ合うたびに心地良い感覚が私の頭を突き抜け、ハンスも心なしか頬を染める。


「さあさ、あなた達! もうその位にして、足を洗ってらっしゃい!」


 街育ちだったお義母さんおかあさんもすっかり農園の女将さんで……左手で私達のを鷲掴みにし、右手には赤ちゃんヤギを抱えている。


 そんなお義母さんを素敵だなあとは思うけど、やっぱり今は……とワンピースの裾を戻し、私はハンスの前でクルリ!と一回りしてみる。


「まあ!可愛い!! ハンス!見てごらん!! お姉ちゃん綺麗だよ!」とのお義母さんの声にハンスは素っ気なかったので

「あ~!! そう言った態度を取ると、もうシャツ作ってあげないから!」と少しむくれた。



 ◇◇◇◇◇◇



 お風呂から先に上がった私が居るのは、父さんとお義母さんの寝室だ。


 ウォールナットの大きなベッドには窓から明るい日が差していて、洗いたてのパリッ!としたシーツに枕が二つ。

 それを見るだけで私の胸はトクトクと音を立てる。


「私がお姉ちゃんなんだから!! 私がリードしなきゃ!!」


 さっきこの部屋に入る前、お義母さんは私を抱き締めキスをくれて


「初めっからうまくしようなんて考えなくていいのよ。失敗して当たり前なんだから!」って言ってくれた。


 気持ちを楽にしようとグラッパまで飲んだのに染まるのは頬ばかり……でもハンスは可愛いって思ってくれるかしら?……

 そんな事を考えてしまい、思わず頬を押さえてベッドに腰掛けるとハンスが部屋に入って来た。


 ハンスったら!! 初めて会ったあの時とまるで同じで!! 

 シャツの下に何にも履いていないのが裾の合わせから見え隠れしている。


 でも、もうハンスは……

 子供じゃない!!


「何、だらしない事してるの!! 目のやり場に困るでしょ!!」と


 ハンスは「だって!……」と言い掛けたが、私が目で刺すと私の左横にストン!と腰掛けた。


『えっ?!えっ?!』と私の心は叫んでしまって心臓がバクバクだ!!


 それなのにハンスは!!両ひざに腕を載せて手を組み、子猫の様にまったりと微笑んだ。


「もう!!!!」とますます赤く染まる私……


 そう!! 大好きな人からこんな顔をされて

 よろめかない女子がいるだろうか??!!


 私は右手の甲と左のひざ下をハンスの右ひざにピトッ!とくっ付けて……彼の左肩を抱き寄せ、くちびるにそっとキスをした。


 次のキスでは……グラッパの香りでハンスを酔わす事ができるかしら……


 季節は豊穣の秋


 そして私達はまだまだ若い甘やかなNOUVEAUヌーヴォーだ……





                          おしまい

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葡萄ふみ 縞間かおる @kurosirokaede

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