第16話 両者の思惑

 簡略化した儀式のみで新帝王として即位したヴァイアルは近衛兵一○○を率いて〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の本陣に足を運んでいた。

 頼りとする位階レベル51にもなる帝國最強の呼び声高い戦士兵長ガルバスを引き連れて。とは言え、この世界で自分の位階を知る者など例外を除いていないのだが。


 敵の本陣は大きいが、それほど兵がいる様子はない。

 それを少しだけ不審に思いながらも先触れを出した後、許可を得てヴァイアルはガルバスと共に陣を訪ねた。


 中にいたのは14人だけ。

 そうたったのそれだけであった。

 拍子抜けしたヴァイアルであったが、気を取り直して早速交渉に移ることにした。

 隣にはガルバスが護るように位置取っている。


「お初にお目にかかる。私はウラーヌス帝國帝王のヴァイアルだ。指揮官殿はどなたかな?」


「私よ。そう……貴方が新しい帝王と言う訳ね。私の名はルシオラ。守護者執政官インペラトルの地位に就く者よ」


 ヴァイアルの目の前には漆黒の髪を軽くウェーブにし、純白のドレスに身を包んだ妖艶なる女性がいた。

 その妖しく艶やかな12枚の漆黒の翼が美しく揺れている。

 虎狼族のヴァイアルをして思わず目を見開かせるほどの美貌であった。


守護者執政官インペラトル? それが王の地位なのだな……ルシオラ殿、此度のことは不幸な行き違いからくる衝突であった。そうは思われぬか?」


 その問いかけにルシオラは少しだけ表情を変化させたが、すぐに元の微笑を浮かべて答える。何処かドス黒い何かを感じたような気がしたのだが、気のせいだろうとヴァイアルは思い直した。


「そうね……。元はと言えば貴国の帝王が我が君を侮辱したところから始まったのだったわねぇ……」


 ルシオラが何かを思い出したのかのように、言葉の語気が荒くなりかけてその体から圧倒的なまでのプレッシャーが放出される。

 そこへ右隣にいた黒いスーツを着た長身の男が一言だけ忠告めいた言葉を掛ける。


「ルシオラ、陛下のご期待に沿いたいのではなかったのかな?」


 細い目をして何を考えているのか分からないが何処か不気味さを感じる。

 途端、急激に威圧感がなくなり、ルシオラは最初のような物腰柔らかな態度に戻る。


「なるほど。貴殿たちには他に主がおられるのか。貴女はその名代と言う訳なのだな」


「ええ、そう取ってもらって構わないわ。それで? 一体何のご用でいらしたのかしら?」


「そのことなのだが、我が国としては貴国と争う気はない。だが、こちらにも面子と言うものがあってだな……帝王がしいされた上、戦いに敗北したでは引けぬのだ」


「ええ、それで?」


 ルシオラの表情はにこやかなのだが、切り出しにくい雰囲気を纏っている。

 やりにくい相手だと思いながらも警戒しつつこちらの提案を伝える。


「そこで先帝をしいした者の首で解決と言うことにはできぬだろうか?」

「……有り得ないわね。元凶はそちらにあることを理解していて? 我が国が態々和平の使者を送ったと言うのにもかかわらず、陛下を侮辱しその上、忠臣の首を差し出せと?」


 先程とは異なり語気は荒くないが、不気味な威圧感が漂っているのはヴァイアルにも感じられた。

 流石にあれほどの軍隊を持つ国と全面戦争になる訳にはいかない。

 必ずや亡国の道を辿ると判断したヴァイアルは冷静を装ってすぐに代案を出した。


「分かった。ではもう1度だけ我が国と一戦交えて欲しいのだが如何か? もちろん戦うのは振りだけだ。貴国が求めているのは和平なのだろう? それは我が国も同様だ。だが我々としても無条件でと言う訳にもいかぬのでな。どうであろう。考えて頂けぬだろうか?」

「事実上の降伏と言うことでよろしいかしら? 貴国としても面子が護れて国が残ればそれで良いと思うのだけれど?」


「承知した。それで和平がなると言うことでよろしいか?」

「構わないわ。いつでも攻めていらっしゃい?」


「では明日、太陽が中天を衝く頃に伺うとしよう。よろしくお頼み申す」

「ええ。楽しみにしておりますわ」


 話はまとまった。

 首を出さないと言われたのは想定外であったが国さえ残ればどうとでもなるし、自分が何とかして見せる。

 だが、相手がたったの14人とは驚いた。

 ひょっとしたら普通にっても勝てるやも知れんな。

 ヴァイアルはそんなことを考えながら陣を後にした。


 全ては想定の範囲内で事態は上手く回っている。

 これでウラーヌス帝國は我が物となるのだとヴァイアルは醜く顔を歪めて嗤った。




 ◆ ◆ ◆




 ――翌日


「向こうはかなりの兵力を投入するようですね。もう少し賢いかと思いましたが所詮は獣と言うことでしょう」


 鬼武蔵は起きて情報を得ると事もなげに言った。

 単なる感想を思ったまま述べてしまったのが悪かったようで、座っていた守護者ガルディアンの1人が勢い込んで立ち上がる。

 その顔に表れた不快の色を隠そうともせずに。


「ちょっと! その言葉は聞きづてならないんだけど! わたしの創造主たるLOVE☆ラ☆DOLL様への冒涜でしょ!!」

「ああ……これは失言だった。メフィスト、申し訳ないことを言ったね。すまなかった」


 『黄昏の24将』の1人であるLOVE☆ラ☆DOLLは狼人ワーウルフ族だったのだ。

 真っ赤な瞳の中に更なる怒りの炎を燃やし、鬼武蔵を睨みつけるが、鬼武蔵も自分の非を認めて頭さえ下げて見せた。


「メフィスト、鬼武蔵も口を滑らすことがあるみたいよ? LOVE☆ラ☆DOLL様のことを馬鹿にするほど落ちてはいないわ。ここは許してあげたらどうかしら?」


 ルシオラが穏やかな笑みを見せながら諭すように仲裁に入ったのでメフィストも溜飲を下げたのか納得の表情を見せて引き下がる。


「しかし敵軍が多いのならアレは潜入させる必要はないのではないか? 勝手に暴発してくれそうなものだがな……念のために潜り込ませるか?」

「念には念を。これ以上の失態は許されないわ……陛下のご意思なのだし確実にやり遂げなければならない……」


 ドラスティーナとしては昨日の帝王ヴァイアルの様子から、その心理状態を読み取っていたのだ。敵の数がたったの14人だと舐めた瞬間の感情を。


「まぁそうよな。それであの帝王とやらは出陣してくるのか?」


 帝王が出陣しようが城に籠ろうがドラスティーナたちからすれば、全く問題にならない範疇である。

 その質問に答えたのはルリとルラの双子の姉妹であった。


「い、一応、出てくるみたいですよ!」

「周りは止めてたみたいだけどね! 面白かったよねー! ルラ!」


 【忍者Ⅹ】を修めているルリとルラにとっては侵入などお手のものであり、造作もない作業だ。

 例え、難攻不落の要塞であっても軽いノリで侵入してしまうだろう。


「ここは楽になったと考えましょう。ルリ、ルラは王城へ侵入して残党を皆殺しになさい」

「いえっさー!! ……ってルラも嬉しいでしょ!! ほら一緒に!」


 レックスの意思である和平を踏みにじった相手に容赦する必要など微塵もないため、ルシオラは殺処分を宣告した。ノリの悪いルラに対してルリが背中を叩いて喝を入れると、控えめながらルラも喜びの声を上げる。


「いえーいー!!」

「や、やったぁ~!!」


 その微笑ましい様子を満足気な顔で見つめていたルシオラに、意外にも鬼武蔵が異を唱える。


「……いや、ルシオラ。少しは残した方が良いのではないかな? 慈悲深き陛下のお考えなのだよ? 殲滅はやり過ぎだと思うがね。それに陛下は恐らく……」

「……? そ、そう……そうね。あの御方おんかたならどんな者にも寛大なるお慈悲をお与えになるでしょうし」


 思わせぶりな言葉を吐いた鬼武蔵に、多少の戸惑いを見せながらもルシオラは彼が言うことに賛同した。考えてみれば確かにレックスの度量の大きさを考えた場合、そうすることが最善に思えたからだ。


 そして太陽が中天を衝き、一陣の風が平原を吹き抜けた。


 変わる――雰囲気。


 張りつめる空気。


「さて、まずはどうでるのか見物ですね。出陣した事実のみで満足するのか……それとも……」


 これから辿るウラーヌス帝國の行く末を考えて鬼武蔵がニヤリと嗤った。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

兄から王位を奪い取った弟は帝王となり虎狼族を率いるが……


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モブのはずなのに、やたらとキャラクターとストーリーが絡んでくるのだが?

レクスはこの世界で縁を持った者たちを護るために物語に関わっていく……


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