第3話 拠点防衛戦 ①

 取り敢えず軍隊など持っていない〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉としてはプレイヤー迎撃用のポップアップ兵団を引き連れて、サイクスとロヴェーナの街へと向かった。


 守護者ガルディアンたちは各々の眷属や部下を引き連れている。

 朧も固有職業クラスである『覇王』の固有能力ファクタスや固有技能スキルを持っているので兵など不要かとも思ったのだが、念には念を入れて、だ。

 『黄昏の王城トワイライト・タワー』の護りは居留守役の守護者ガルディアンと守護者の下位NPCである各階層の統括者レガトスに任せてきた。


 ――拠点・サイクスの街付近


 朧は鬼武蔵とヴィクトル、ジークフリートを連れて、正体不明の軍を待ち構えていた。


「(それにしてもルシオラは何を考えてこの編成にしたんだよ……皆、近接戦闘特化ばっかりだぞ。まぁ鬼武蔵とジークフリートは魔法も少し使えるけど)」


 鬼武蔵は刀を扱う剣士だし、ヴィクトルも同様だ。

 違うのは種族だけであり、前者は人間族、後者は鬼人族である。

 ジークフリートは大剣使いで神の眷属だ。


「陛下、ここは俺が突っ込んで斬りまくって参ります」


 いきなり脳筋な発言をしたのは燃えるような赤い髪を逆立て引き締まった体躯を軽装備で包んでいるヴィクトルだ。彼の近接戦闘能力は鬼人の力と相まって〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉では屈指である。


「先陣を切るなら私の出番でしょう。ヴィクトル、力だけでは何も解決はしませんよ?」


 鬼武蔵が横から口を挟み、自分こそが適任であるとアピールしてくる。

 彼は『剣聖』なみの力を持ちながら、魔力を剣に上手く付与させて戦う技巧派の剣士であり同時にある程度の魔法も扱える魔導士でもある。


 普通の国なら任せても良いのだが、ここは恐らく異世界である。

 となれば、如何に位階レベル100を誇るとは言え、それに匹敵する者がゴロゴロしていてもおかしくはない。

 予想される敵国がゲームに出てくるサンドベルグ王国軍とラミレア王国軍の通りであれば、簡単に蹴散らせるかも知れないが確証がない以上無理はしたくないと言うのが本音だ。それに自分の固有職業クラスである『覇王』の能力ファクタス技能スキルも試しておきたいと言う理由もあった。


 朧はそう考えて自分が出ることに決める。


「おま、貴様らはここで見ているといい。検証がてら俺が能力ファクタスで攻める。よく聞け。この世界の敵の実力が分からない以上、迂闊に動くことはできん。分かったな?」


「はッ……」

「御意にございます」

「異論などあろうはずもございません」


 ずっと黙って聞いていたジークフリートも賛成してくれたので、朧は彼らを連れて進軍する軍隊目の前へと転移する。

 ロクサーヌの話ではおよそ五○○○。

 しかし朧は敵の動きに何処か違和感を覚えていた。


 ゲームでは拠点に攻め入られると、情報がポップされてログインしているプレイヤーに共有される。

 そのため、攻めるとなったら一気に勝負を仕掛けるのが普通だ。

 NPC国家でもなければ、特に急襲したり、朝方に奇襲したりすることはない。

 もちろん、相手のログイン時間を把握できていれば、インが少ない時間帯を狙うことはあるのだが。


 そして今、ロクサーヌの情報収集で敵が頻繁に斥候や偵察部隊を動かしていることが判明した。

 普通はプレイヤーはもちろん、NPC国家はそんなことなどしない。

 大抵は魔法で情報収集して解決である。


「(いや、ゲームとは違って、現実に則した方法を取るようになったのか? まぁでもプレイヤーではないなコレは)」


 朧がそう考えていると、相手に動きがあった。

 軍がサイクスの街に向けて進軍を開始したのだ。

 恐らく、駐屯する兵士がいないのを確認した結果なのだろうが、やたらと周囲の地形なども気にしている様子だ。


 取り敢えずは迎撃して〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉に敵対する者の名前を聞き出す必要があるので、朧もすぐさま行動を開始した。


 まずは一番弱い能力ファクタスから試すことに決めた朧が固有能力を発動する。

 心の中で叫んでも駄目、念じても駄目。

 レックスは【伝言メッセージ】を使用した時の感覚を思い起こす。

 集中すると魔法の時のように、何かが繋がったことが自然と理解でき、胸の内に強力な力の塊が去来する。


 今――


 レックスは直感的に固有能力ファクタスの名前を叫んだ。


【覇王の進撃Ⅹ】


 これは覇王に仕えし一○○○○の位階レベル30の兵士を召喚して敵と戦わせることができる覇王の固有能力である。

 能力や技能全般にも言えることだが、Ⅰ~Ⅹまで熟練度デグリーがあり、高いほど兵数や攻撃、防御、俊敏などのパラメータが上がる。

 つまり強兵になっていくと言う訳だ。

 敵はどこぞの一般兵と思しき部隊なので、強さを測るにはちょうど良い。


 雄叫びを上げて兵士たちが草原に突然現れる。

 陽炎のようにゆらゆらと揺れながら彼らの姿が鮮明になっていく。

 しかも発動した瞬間に荒れ地だった街の周辺が草原へと変貌を遂げていた。

 これはもっとも自軍団にとって有利な地形効果が出る異空間を作り出しているからだ。


 急に目の前に歩兵の大軍が出現した上に、周囲の風景すらも変わったことに攻め込んできた兵士たちが混乱し始める。

 朧は固有能力がちゃんと発動したことに安堵しつつ、軍団に敵指揮官の捕縛と兵士の強さの把握を命令した。


 一気に突撃されて混乱した敵軍が、まるで雪崩に巻き込まれるかの如く覇王の軍団に飲み込まれた。


 雄々しい叫び声と悲鳴のみが周囲に木霊する。


「流石は陛下の軍団です! まさに圧倒的!」

「当たり前のことを言うな、鬼武蔵。分かり切ってたことだ」


 鬼武蔵とヴィクトルはあっと言う間に瓦解していく敵軍に歓喜の声を上げている。

 確かに固有能力が発動した際に朧が味わった高揚感は凄まじいものがあった。

 しかし……である。


「弱いな……一体何処の国の軍なんだ……? 3人共攻撃に加わってくれ。敵がどの程度の強さをよく観察しろ。後で感想を聞きたい。それと指揮官はもちろん、なるべく多くの兵士を捕らえろ。行け!」


 3人を送り出して朧は考える。

 敵はその様子から考えるにサイクス周辺の地理に疎い。

 敵兵士が弱過ぎて、本当にNPC国家による侵攻なのかさえ疑問である――朧の予想位階レベルは10程度。


 それにいくら全盛期から比較すれば落ちぶれたとは言え、まだまだ保有戦力値の高い〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉に攻め込む理由がない。

 NPC国家によってAIの戦略や思考は異なるのだが、実力差を理解している国ならば攻めてくるはずがないのだ。

 周辺国家などと連合して攻めてくる可能性はあると言えばあるのだが。


「はぁ……まさかこんなことになるなんてな。『ティルナノグ』の世界に来れたのは別にいいんだけど。別に元の世界に未練があるわけでもないしな」


 朧は幼少期から今までの人生を振り返ると、頭に過去の記憶が過っていく。

 昔から引っ込み思案で消極的。

 外で元気に遊ぶことなどせず、家でゲームをしたり漫画を読んだりして過ごした日々。家で怒鳴り散らして暴れる父親と、自分の価値観のみが正しいと押し付けてくる母親。

 虐待してくる叔母や、それを見て見ぬ振りする祖父母。

 その内、朧はゲームにのめり込み、その中でイキるようになっていた。

 本人は気付いていないが、それが『ティルナノグ』での覇王ムーブロールプレイにも表れている。


「覚悟を決めないとな。この世界では僕は朧じゃないんだ。僕は……いや俺はレックス・オボロ・マグナとして第2の人生を歩いていくんだ!」


 ◆ ◆ ◆


 ――朧がそう覚悟を決めていた頃。


 前線では鬼武蔵とヴィクトル、ジークフリートが暴れまわっていた。


よえよえぇ!! 人間ってのは脆いもんだなぁ! それともこの国の兵たちが弱いだけかぁ!?」


 野太刀のだちを振るいながら嗤う姿は心の底から楽しんでいるように見える。

 その膂力も相まって敵兵たちは千切れ飛び、肉片となって大地に落ちる。

 血飛沫が顔に掛かってまさに鬼の形相になっていることに本人は気付く様子もない。踊り狂うかのような乱舞で敵兵士たちを細切れにしていくその表情は愉悦に歪んでいる。


 ヴィクトルの言葉に聞きづてならないと文句を言うのは鬼武蔵であった。


「人間で一括りにされては適いませんね。そこらの兵と一緒にされては不愉快ですよ?」


 彼も戦闘を楽しんでいるようで、その口角は吊り上がっていたが、それほど力を振るっている訳ではない。

 相手の力を推し測るように程度を合わせて戦っている。

 大いなる至高の君主に言われたことを忠実に守っているだけだ。


「もう飽きた……オレァ弱い者虐めってのが嫌いなんだ……指揮官を生け捕ってくる」


 そう言い捨ててさっさと行ってしまったのは飄々とした態度を崩さないジークフリートだ。顔を隠す仮面から表情は読み取れないが辟易しているのは間違いないと思われるし、彼が飽きっぽいのは今に始まった話ではない。


「おいおい。初めての外だぞ? もっと楽しめよなぁ……! 熱くなれよ!!」


 ヴィクトルが大声で呼びかけるが、反応はない。

 その言葉が届かなかっただけなのか、敢えて無視したのか聞き入れる様子は見られない。


 鬼武蔵とヴィクトルは顔を見合わせてため息を吐いた。


 結局、ジークフリートが指揮官を捕縛して、生き残った兵士3人を引き連れて朧のところへと守護者たちは戻っていった。


 あまりにもあっさりとサイクスの街が護られたことに朧が拍子抜けしたのは言うまでもない。

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