人形趣味

整備兵の男は格納庫を出て、食堂の椅子に座りレーションを食べているところだった。

食堂ではもう少し高級な食物もあるが、男は飯の味にそこまで関心のないタイプである。

浮いた食費を何に使うかというと、その半分は貯金、もう半分は情報受信にあてている。

食堂には受信室があり、レーションの倍ほどの値段を払えばそこで小さなモニターから戦場における戦闘の様子が見れるようになっている。

食後、そこで一、二時間ほど映像を眺めるのが男の日課だ。映像は優勢な方を「自軍」と紹介し、劣勢な方を「敵軍」と称するお粗末なプロパガンダでもあるのだが、男はそんなことは気にしない。

男は機械白兵の戦闘そのものが好きなのだ。戦況などにはまるっきり興味がない。つくづく、整備兵が天職の男だ。

だから今日も、男は雑にレーションを貪った後、金額を払って受信室の扉を開いた。他の整備兵はプロパガンダの映像に価値など見いだせないので、貸切状態だ。

一日中映像はつけられているから、液晶はすっかり焼けている。映像の中では、やはりいつものように算式やほか「加式」、「減式」などの機体が走りつつライフルを撃ち合って戦う。

男は算式が一番好みだが、加式や減式もそれぞれ格闘性能、機動性が強化されたモデルとして無駄のない構造をしているので、男はそれらを見ながら満悦といった表情をしていた。

しかしある機体を見たとき、男の表情は崩れた。

蘭式だ。整備時とは違い、ドレスのような追加装甲を纏い金属の躰を隠した蘭式。

まるで花嫁のようにきらびやかなその機械白兵は、一瞬の内にブレードで五、六の機体を両断していた。

ぽかんとした男が映像を見ていると、そこで説明の機械音声ナレーションが入る。

「蘭式は、特任第八中尉の搭乗する専用機体である。この数週間で五十の敵軍所属の機械白兵を殲滅したとして報告された」

最低限の情報のみを伝え、無機質なナレーションは終わった。

特任第八中尉──その存在については、男も少しは知っていた。

特任位は通常位と違い、人間の入れ替わりの激しい軍において、決定的な実力を保証された称号だ。

条件は厳しいものだが、その待遇は他とは比べられない。無尽蔵の給金、無許可発泡可能、死後六階級特進など、語るに尽くせないものだ。

そしてまた、特任第八中尉といえばある異名でも知られていた。

「人形趣味」───男はそのとき、初めてその異名の真意を知った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る