第2話:嘘から出た実

1.偽装デートの始まり

神奈川県の海沿いの町、3月下旬の春休み。須藤翔太(14歳、中学2年生)は、部屋のベッドに寝転がり、スマホをいじっている。画面では、友人の京一と涼介とのLINEのグループトークが賑わっている。


京一:D組の拓巳と夏希、付き合ってんだってよ!!ところで翔太、彼女できたか?w

涼介:ハハ、翔太に彼女とか無理だろ! ゲームばっかやってんじゃんw


翔太はムッとし、ついカッとなって返信する。


翔太:うるせぇ! もう付き合ってるから! めっちゃかわいい子だぞ!


グループトークが一瞬静まり返り、すぐに爆発。


京一:マジ!? 翔太、うそだろ!? どんな子!?

涼介:証拠見せろよ! 写真! 写真!


翔太はスマホをベッドに投げ出し、頭を抱える。


「うわっ、なんであんなウソついたんだよ…! 彼女なんかいねぇのに!」と独白。


だが、友人たちの「じゃあ、週末に彼女連れてこいよ!」というメッセージに、翔太は青ざめる。


「ヤバい…どうすんだ、これ…」


ふと、従兄弟の星野玲(17歳)のキラキラした姿が頭に浮かぶ。高校生の玲は、男の娘としてギャル風のメイクとミニスカートで輝く存在。


翔太は、玲が遊びに来た時のドキドキを思い出し、(玲なら…! あいつのキラキラなら、絶対友達も騙せる!)とひらめく。勇気を振り絞り、玲にLINEを送る。


翔太:玲、週末、ちょっと頼みがあるんだけど…。俺の友達に、彼女のフリして会ってくれねぇ?


数分後、玲からの返信。


玲:え~、翔ちゃんの彼女!? ふふ、面白そ~!どんなコーデがいい?


翔太は「よ、よし! これでピンチ脱出だ!」と拳を握るが、内心で(玲を彼女として友達に見せるの…なんかヤバい気がする…)とドキドキが止まらない。



2.玲の輝き

週末、街の駅前広場。翔太はジーンズとTシャツにパーカー姿でそわそわしながら待つ。京一と涼介が「翔太の彼女、マジで来るのか?」「絶対ウソだろ!」とニヤニヤしながらからかう。


そこへ、玲が現れる。ピンクのオフショルダートップ、白いミニスカート、揺れるハート型ピアス。長い髪はゆるく巻かれ、ピンクのリップとパールアイシャドウが陽光に映える。完璧なギャルメイクの玲は、笑顔で手を振る。


「翔ちゃん! 遅れちゃった、ごめんね~!」


京一と涼介は口をあんぐり。


「う、うそ…! めっちゃかわいいじゃん!」と目を丸くする。


翔太は「ほ、ほらな! 言っただろ!」と強がるが、玲の圧倒的な輝きに(ヤバい…玲、めっちゃ目立ってる…!)と内心焦る。


玲は翔太の腕に軽く絡み、「翔ちゃんの友達? よろしくね~! 星野玲だよ~!」とウインク。


京一が「翔太、こんなかわいい子と、どこで知り合ったんだよ!」と興奮し、涼介が「玲さん、翔太のどこが好きになったの?」とニヤリ。


玲は翔太をチラリと見て、柔らかく微笑む。


「翔ちゃんの…優しいところ、かな。昔から私のこと、ちゃんと見てくれるんだよね〜」


その言葉には、嘘以上の何か…子どもの頃、玲がまだ自分を隠していた時に、翔太が無邪気に遊んでくれた記憶が込められている。


翔太は「う、急に何!?」と顔を赤らめ、(玲、なんでそんな…ガチっぽく言うんだよ…!)と動揺する。


京一と涼介は「翔太が優しい!? 俺たちには全然優しくねぇぞ!」「マジすか、めっちゃラブラブじゃん!」と大騒ぎ。


玲は「ふふ、翔ちゃん、友達には隠してるんだ~?」と小悪魔な笑顔で耳元で囁き、翔太は「や、やめろって、玲!」とじたばた。


やがて京一が「じゃあ、俺たち邪魔しないで帰るわ! 二人で楽しんでこいよ!」とニヤニヤし、涼介が「翔太、うらやましいぜ!」と肩を叩いて去っていく。


翔太は「う、うまくいった…?」とホッとするが、玲が目を輝かせて言う。


「ね、翔ちゃん。せっかく彼女のフリしたんだから、ほんとにデートしよっか?」


翔太は「え、デート!? マジで!?」と驚きつつ、玲の笑顔に抗えず、「ま、まぁ…いいけど」と呟く。だが、心の奥で、嘘のデートが本物の感情を呼び起こす予感に、胸がざわつく。



3.二人だけの時間

・ゲームセンター

玲と翔太は駅前のゲームセンターへ。玲はクレーンゲームの前で目を輝かせ、「翔ちゃん、これ取って~! めっちゃかわいいぬいぐるみ!」と手を叩く。


翔太は「俺、こういうの苦手なんだけど…」とブツブツ言いながらコインを投入。意外にも一発でぬいぐるみをゲットする。


玲は「うわっ、翔ちゃん、めっちゃカッコいい! これ私にくれる?♡」と腕に抱きつく。


翔太は「う、離れろよ! ただのぬいぐるみだろ!」と赤面する。ぬいぐるみを抱きしめ「ありがと〜!大切にするね♡」と笑う、玲の無邪気な笑顔に(ヤバい…めっちゃかわいい…)と心が揺れる。


玲が音ゲーでリズムに合わせて太鼓を叩くと、周囲の客が「すげぇ、めっちゃ上手い!」と感嘆。翔太は「玲、目立ちすぎだろ…!」と焦るが、玲の楽しそうな姿に、子どもの頃に一緒に遊んでいた際の玲を思い出す。


あの頃、玲はいつも少し遠慮がちだった。父親の厳しい視線や同級生の冷ややかな目から逃れるように、翔太とだけ本気で笑い合ったた。


(あの時の玲…、今の玲と、どっか似てるんだよな…)



・カフェ

次に、二人で海の見えるカフェへ。玲はパフェをスプーンでつつきながら、「翔ちゃん、昔よくアイス一緒に食べたよね。ほら、あ~んしてあげる!はい、あ〜ん♡」とスプーンを差し出す。


翔太は顔を真っ赤にして「う、子どもじゃねぇんだから!」と拒むが、玲の「え~?彼女とのあ~ん、嫌い?♡」という小悪魔な目に負け、渋々口を開ける。


周囲の客の「若いカップル、かわいいね」という囁きに、翔太は「恥ずかしすぎる…!」と顔を覆う。


玲は「ふふ、翔ちゃんの照れる顔、めっちゃ好き~!」と笑い、翔太は(このドキドキ、全然慣れねぇ…!)と心臓がバクバク。



・映画館

午後、映画館の暗闇。恋愛映画のワンシーンで、ヒロインが主人公にキスする場面で玲が「翔ちゃん、こういうの…好き?」と耳元で囁く。


翔太は「う、うるさい! 映画見てろ!」と小声で返すが、玲の肩が触れ、甘い香水の匂いに心臓が跳ねる。


さらに、ポップコーンをつまもうと手を伸ばした翔太と玲の手が重なり、二人は慌てて手を引っ込める。玲が内心で(翔ちゃんの手…大きくて…温かい)と呟き、翔太は(うわっ…玲の手、細くて柔らかくて…女の子みたいだ…)と独白し、顔を赤らめる。


映画が終わり、ロビーを歩きながら二人が感想を語り合う。ラストの主人公がヒロインを抱きしめるシーンを思い出し、玲が「翔ちゃん、ああいうの…私も憧れるな~」と呟き、翔太は「な、なに!? 急に何だよ!」と慌てる。


玲はクスクス笑い、「冗談だよ~! 翔ちゃん、純粋すぎ~!」とからかうが、翔太の心は(玲の笑顔、めっちゃ…ヤバい…)と完全に翻弄される。



4.夕陽の中の本音

日が暮れ、公園のベンチに二人は並んで座る。春の夕暮れは、まだ少し肌寒い。玲はミニスカート姿で少し震えながら肩をすくめる。


翔太は玲を見て「お前、寒くね? その服、薄すぎだろ」と呟く。玲は「ふふ、オシャレのためには我慢しちゃうよ」と笑うが、小さく震える姿に、翔太は意を決してパーカーを脱ぎ、玲の肩にかける。


「ほら、風邪引くぞ。これ着とけよ」


玲の目がキラキラと光る。


「翔ちゃん…ほんと優しいね。昔から、そうだったよね」


その声には、偽装デートを超えた本音が滲む。翔太は「べ、別に…普通だろ」と顔を赤らめ、目を逸らす。


玲はベンチの上で膝を寄せ、翔太をじっと見つめる。


「ね、翔ちゃん。今日、楽しかったよ。嘘のデートだったけど…私、ちょっとだけ、本物の彼女みたいに感じちゃった」


その言葉に、翔太はドキッとする。「お、お前、急に何だよ! からかうなよ!」と叫ぶが、玲の瞳に映る夕陽が、どこか寂しそうに見える。


玲が俯きがちに目を伏せ、語り始める。


「翔ちゃん、前に少し話したよね…。 私、昔は自分を隠してた。『男らしくしろ』って、父さんに何度も言われて…。今の私、受け入れてくれるかなって、いつも怖いんだ」


玲の声は小さく、初めて見せる弱さに、翔太は言葉を失う。


玲の言葉に、子どもの頃の記憶が蘇る。玲がいじめっ子に女っぽいと冷やかされ、泣きながら翔太の後ろに隠れた日。翔太はいつも、玲を守ろうとした。


(あの頃の玲を思い出すと…今でも、守ってやりたいって…思うんだよな)


翔太が玲の目をまっすぐ見据え、語りかける。


「玲…そんなこと、気にしなくていいだろ。お前、めっちゃ輝いてるじゃん。俺…その、今日、めっちゃ楽しかったし…。お前、ホントすげぇよ」


翔太が頬を赤らめ、目を逸らしながら呟く。


「それに…お前に何があっても、俺が守るから」


玲は目を潤ませ、笑顔を取り戻す。


「翔ちゃん、ありがと…。やっぱり、翔ちゃんは昔の私も、今の私も…ちゃんと見てくれてるんだね」


玲が立ち上がり、スカートが風に揺れる。しんみりとした空気を誤魔化すかのように、玲がイタズラっぽく笑って呟く。


「ね、翔ちゃん、知ってた? いとこ同士って、結婚できるんだよ?」


翔太は飛び上がり、声を裏返す。


「な!? 何言ってんだよ! 男同士で結婚とか…!」


玲は「あはは♪ 冗談だよ~! 翔ちゃん、からかいがいある~!」と笑い、歩き出す。くるっと振り返り、翔太に微笑む。


「また遊ぼうね、翔ちゃん。次は…嘘じゃない時間、過ごしたいな」


夕陽に照らされた玲の姿は、眩しく、どこか儚い。


玲は手を振りながら去っていく。翔太はベンチに座ったまま、玲の姿を見つめ、独白する。


(玲のやつ…めっちゃ輝いてて、かわいくて…。俺、なんでこんなにドキドキしてるんだ…?)


風が二人の間を吹き抜け、玲の笑顔が翔太の心に深く刻まれる。



5.虚像の先に

翌日、学校の教室。京一と涼介が翔太に絡む。


「お前、玲さんとのデート、どうだった?」「マジでうらやましいぞ!」とニヤニヤ。


翔太は「う、うるさい! ただ遊んだだけだって!」と強がるが、スマホに届いた玲からのLINEに目が留まる。


玲:翔ちゃん、昨日めっちゃ楽しかった! 次はどんなデートしよっか?またキラキラしちゃうよ~!


翔太は顔を赤らめ、「ったく…。あいつ、ほんとヤバいな…」と呟くが、口元には小さな笑みが浮かぶ。


玲は自宅アパートの鏡の前でメイクをしながら、呟く。


「翔ちゃんの優しさ…昔も今も、変わらないね。私の気持ち、ちゃんと届いたかな…?」


玲の輝きは、嘘のデートを通じて、翔太の心に小さな恋の芽を植えつけた。鏡の虚像は、玲と翔太の心に、いつか本物の光を映すかもしれない。(つづく)

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