第参話:闇哭の道に響く鈴
山道は暗く、街灯も途切れて久しい。
黑と白は懐中電灯の明かりだけを頼りに、静かに歩いていた。
「……けっこう登ってきたじゃな ? 」
「うん。地図で見た感じだと、もうすぐだと思う」
足元の小石を踏む音だけが、夜気に吸い込まれていく。黑は懐に手をあてる。
すると、中の鈴が僅かに鳴った。
「……まだ、鳴いでらな」
「やっぱり、その中に何かいるの ? 」
「いや ? こりゃ、神さんからの警鐘だ」
「なるほど」
白が懐中電灯の光を前に向ける。霧の向こう、山腹にぽっかりと黒い口が開いていた。
それは、古いトンネル。入口の上には、朽ちかけた注連縄。
その足元には、誰かが置いたらしい供物の跡が崩れ散らばっている。
「……ここだね」
「んだ。人が近寄らん理由がよぐ分がる」
黒は周囲を見回し、息を静かに整えた。現世では、どこで誰に見られでるかわからない。
だからこそ、角も力も隠したまま……――――【普通の人】として行動するしかないのだ。
「……中さ、入るじゃ」
「うん」
二人は足を踏み入れた。懐中電灯の光が濡れた壁を照らす。
水の滴る音、風の抜ける音……それに混じって、微かに聞こえる。
「……泣いとるな」
「んー……女かな ? 」
それは子どものようにも、大人のようにも聞こえた。遠くの闇が微かに震えている。
黑は目を細め、低く呟いた。
「……泣いとんのは、誰だべな」
その声に応えるように、闇の奥で水音が一つ、跳ねた。
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