『俺達のグレートなキャンプ110 特製「にんにくワサビおにぎり」でおにぎり名人を唸らせよ』

海山純平

第110話 特製「にんにくワサビおにぎり」でおにぎり名人を唸らせよ

俺達のグレートなキャンプ110 特製「にんにくワサビおにぎり」でおにぎり名人を唸らせよ


山々に囲まれた清流キャンプ場。朝の澄んだ空気の中、テントサイトでは早朝から賑やかな声が響いていた。

「よーし!今日もグレートなキャンプの始まりだぞー!」

石川が両手を高く上げて叫ぶ。(※朝6時30分)隣のテントサイトから「うるせーよ…」という呟きが聞こえるが、石川は全く気にしていない。むしろ満面の笑みを浮かべながら千葉と富山を見回す。

「石川さん、今日の奇抜なキャンプって何ですか?昨日から楽しみで眠れませんでした!」

千葉が目をキラキラと輝かせながら石川に駆け寄る。寝癖がついたまま、まるで小学生のような表情だ。一方、富山は焚き火台の前でコーヒーを淹れながら、明らかに疲れた表情を浮かべている。

「あー…今度は何やらかすつもりなの…」

富山が小声でぼやく。(※既に今朝の石川の奇声で近隣キャンパーから3回苦情を受けている)

「フフフ…今日のグレートなキャンプはこれだ!」

石川がリュックサックから取り出したのは、大量のにんにく、わさび、そして緑色に光る謎の粉末。千葉の目がさらに輝く。富山の眉間に深いしわが刻まれる。

「今日は『特製にんにくワサビおにぎりでおにぎり名人を唸らせよう大作戦』だ!」

「おおー!すごそうですね!」千葉が手を叩いて喜ぶ。

「すごい…すごいけど…」富山がコーヒーカップを持つ手を震わせながら続ける。「その緑の粉、何?」

「これか?青汁パウダーだ!健康にいいぞ!」石川が得意げに粉末を振る。粉が宙に舞い、近くのテントに降り積もる。

「おにぎりに青汁って…」富山が青ざめる。

石川が振り返ると、隣のテントサイトで朝食の準備をしている中年男性を指差す。男性は背筋をピンと伸ばし、軍隊のような規則正しい動作で美しい三角おにぎりを次々と作っている。その手つきはまさに職人を通り越して芸術の域だ。

「あの人だ!昨日話しかけたら、鈴木って名前で、30年間毎日おにぎり作ってるって言ってた。しかも元自衛官!これぞおにぎり名人!」

富山が慌てて石川の袖を引っ張る。「ちょっと待って、元自衛官の人に迷惑かけちゃダメでしょ…怖そうだし…」

「大丈夫だって!キャンプは人と人の繋がりが大事なんだよ!」石川が胸を張る。

千葉が興奮気味に手をこすり合わせる。「で、で、どうやっておにぎり名人を唸らせるんですか?」

「簡単だ!通常の100倍のにんにくと50倍のわさび、そして青汁パウダーを入れた『健康爆弾おにぎり』を作って、『これぞ究極の健康おにぎりです!』って言って食べてもらうんだ!」

「「えええええええ!?」」

千葉と富山の声がハモる。近くのテントから「朝からうるさいぞー」という苦情の声が飛ぶが、石川は全く意に介さない。

「それ、健康になる前に病院行きになるんじゃ…」富山が震え声で呟く。

「いいや、きっと『こんな斬新で健康的なおにぎりは初めてだ!君たち天才だな!』って褒めてくれるはずだ!」石川が確信に満ちた表情で炊飯器をセットし始める。

炊飯器に米を入れ、そこに大量のにんにくをすりおろし始める石川。さらに青汁パウダーをドバドバと投入する。米が完全に緑色に染まる。辺り一面にものすごいにんにくと草の匂いが立ち込める。(※半径50メートル以内のキャンパーが全員テントから顔を出して状況確認を始める)

「うわあああ、めっちゃ変な匂い!でも健康そう!」千葉が鼻を押さえながらも、なぜか嬉しそうだ。

「石川…これ、本当にやばいって…」富山が涙目になりながらわさびをすりおろし始める。(※なぜか協力してしまう富山)

「見て見て!米が完全に緑色になったよ!まるで抹茶みたい!」石川が興奮して炊飯器を覗き込む。

にんにくとわさびと青汁の強烈な匂いで、キャンプ場全体がざわつき始める。他のキャンパーたちが「何だあの匂いは」「目が痛い」「なんか草っぽい」と騒いでいる。

一方、隣のテントサイトでは鈴木が規則正しくおにぎりを作り続けている。背筋をピンと伸ばし、一切の無駄な動きがない。まるで機械のような正確さで三角形を形成していく。

「よーし、ご飯が炊けたぞ!」

炊飯器を開けると、完全に緑色になったご飯から湯気と共にさらに強烈な匂いが立ち上る。千葉が咳き込み、富山が後ずさりする。

「うっ…これ、宇宙人の食べ物じゃない?」富山が手で口を覆う。

「大丈夫大丈夫!愛情と健康成分がたっぷり込められてるからな!」石川が涙を流しながら(※匂いで)おにぎりを握り始める。

完成したおにぎりは全体が毒々しい緑色で、まるでエイリアンの卵のような不気味な光沢を放っている。近づくだけで目が痛くなり、鼻がツーンとする。

「うわあ…見た目がすごいことになってますね…」千葉が目を丸くする。

「これ、食べ物なの?それとも生物兵器?」富山が震え声で呟く。

その時、隣のテントサイトの鈴木が石川たちの様子を見て、規則正しい足音で近づいてくる。背筋がピンと伸び、まるで軍隊のような歩き方だ。

「おはようございます。何か騒がしいようですが、大丈夫でしょうか?」

鈴木の声は低く、威厳がある。石川たちを見下ろすその眼差しは鋭く、まるで検閲官のようだ。

「あ、鈴木さん!ちょうど良いタイミングです!」石川が振り返る。鈴木の顔が一瞬で険しくなる。

「特製にんにくワサビ青汁おにぎりが完成しました!健康成分がギッシリです!ぜひ食べてください!」

石川が差し出したおにぎりを見た瞬間、鈴木の表情が凍りつく。30年の軍隊経験でも見たことのない物体が目の前にある。

「これは…一体何ですか?」鈴木が低い声で尋ねる。

「おにぎりです!」石川が無邪気に答える。

「おにぎり…ですか?」鈴木の目が細くなる。「私は30年間、毎日おにぎりを作り続けてきました。しかし、このような…物体をおにぎりと呼ぶのは…」

「どうぞどうぞ!遠慮しないで!健康にいいんですよ!」千葉も一緒になって勧める。(※なぜか石川に完全に同調している)

富山が慌てて水筒を用意しながら「ごめんなさい、本当にごめんなさい…」と謝り続ける。

周りのキャンパーたちも興味深そうに集まってきている。

「おー、なんか面白そうなことやってるね!」若いカップルが近づいてくる。

「緑色のおにぎりなんて初めて見た!」ファミリーキャンパーの子供が指差す。

「健康的そうじゃない!私も食べてみたい!」中年女性が目を輝かせる。

鈴木が恐る恐るおにぎりを受け取る。その瞬間、手に持っただけでツーンとした刺激で涙が溢れ出す。

「う、うわああああ…これは…」

鈴木の厳格な表情が初めて崩れる。30年の軍隊経験でも体験したことのない刺激に、さすがの鈴木も動揺を隠せない。

「どうですか?どうですか?」石川と千葉が目をキラキラさせて見つめる。

「私は…」鈴木が震える手でおにぎりを見つめる。「私は軍隊で様々な非常食を食べてきました…しかし、これは…」

「美味しそうでしょ!」石川が胸を張る。

鈴木が深呼吸をして、軍人魂を発揮する。「よろしい…食べてみましょう」

鈴木がおにぎりを口に運ぶ。その瞬間…

「うああああああああああああああああああ!!!!!」

まさに絶叫が響き渡る。鈴木が涙と鼻水を垂らしながら、口から火を噴いているかのように「はふはふはふ」と息を荒げる。30年間培った軍人の規律も完全に崩壊している。

「おー!すごい反応ですね!」千葉が感動している。

「やったぞ!おにぎり名人を唸らせたぞ!」石川が勝利のポーズを取る。

「これ、唸ってるんじゃなくて苦しんでるのよ!」富山が慌てて牛乳を持ってくる。

しかし、周りのキャンパーたちは鈴木の強烈な反応を見て、逆に興味を持ち始めている。

「すごい反応だ!きっと美味しいんだよ!」若い男性が手を伸ばす。

「私も食べてみる!」中年女性がおにぎりを掴む。

「僕も僕も!」子供たちが群がる。

「みんなやめて〜!」富山が制止するが時既に遅し。

次々とキャンパーたちがおにぎりを口に運ぶ。そして…

「ぎゃああああああ!」

「うわああああああ!」

「ママー!口が燃えるー!」

「これ辛い!でもなんか体がポカポカする!」

「涙が止まらない!でも健康になってる気がする!」

キャンプ場全体が悲鳴と涙に包まれる。しかし不思議なことに、みんな涙を流しながらも「もう一個食べてみる!」「体に良さそう!」と言い始める。

鈴木が涙を拭いながら、震え声で話し始める。

「こ、これは…」鈴木が深呼吸をする。「確かに…30年間おにぎりを作り続けてきましたが…」

石川と千葉が身を乗り出す。

「こんな…こんな強烈な…」鈴木がまた涙を拭く。「こんな強烈な健康効果を感じるおにぎりは…初めてです…」

「やったー!」石川と千葉がハイタッチ。

「しかし…」鈴木が厳格な表情を取り戻そうとする。「これをおにぎりと呼ぶのは…軍人として…いや、おにぎり職人として…」

「でも体に良いって言ってくれましたよね!」石川が食い下がる。

「確かに…青汁の効果で体が軽くなった気がします…」鈴木が困惑した表情で自分の体を確認する。

「ほらほら!健康おにぎりの効果ですよ!」千葉が得意げに胸を張る。

周りのキャンパーたちも涙を流しながら次々と感想を述べている。

「辛いけど、なんか元気になった!」

「目が覚めた!コーヒーより効く!」

「便秘が治りそう!」

「でも二度と食べたくない!」

管理人さんが慌てて駆けつけてくる。キャンプ場全体が涙と鼻水の海になっているのを見て、青い顔になる。

「一体何が起きてるんですか!?」

「健康おにぎりの試食会です!」石川が満面の笑みで答える。

「健康おにぎりって…」管理人さんが緑色のおにぎりを見て絶句する。

「管理人さんも食べてみませんか?」千葉が無邪気におにぎりを差し出す。

「いえいえいえいえ!遠慮します!」管理人さんが慌てて後退る。

その時、鈴木が立ち上がり、涙を拭きながら厳格な口調で話し始める。

「皆さん、お聞きください」

キャンプ場全体が静まり返る。鈴木の威厳ある声に、涙を流していたキャンパーたちも注目する。

「私は30年間、軍隊で規律正しい生活を送り、毎日正統なおにぎりを作り続けてきました」

みんなが固唾を呑んで見守る。

「しかし…」鈴木が石川たちを見る。「このような…斬新で…健康的で…」

石川と千葉の目がキラキラと輝く。

「破天荒なおにぎりに出会ったのは初めてです!」

「おおおおお!」石川と千葉が抱き合って喜ぶ。

「ただし…」鈴木が厳格な表情に戻る。「これは軍事訓練用の非常食として分類すべきものであり、一般的なおにぎりとして提供するのは…危険です」

「あー…」富山が小さく呟く。

「しかしながら…」鈴木が続ける。「健康効果は確実に感じられます。体がポカポカし、頭がスッキリし、便通も良くなりそうです」

周りのキャンパーたちが頷く。みんな涙を流しながらも、なぜか体調が良くなったような表情をしている。

「つまり…」石川が期待の眼差しで見つめる。

「つまり…これは…」鈴木が深呼吸する。「『究極の健康兵器おにぎり』として認定いたします!」

「やったあああああ!」石川と千葉が跳び跳ねて喜ぶ。

「健康兵器って…」富山が頭を抱える。

その時、突然キャンプ場に救急車のサイレンが響く。誰かが「キャンプ場で集団食中毒発生」と通報したらしい。

「あ、救急車だ!」千葉が指差す。

「きっと俺たちの健康おにぎりの効果を確認しに来てくれたんだよ!」石川が手を振る。

救急隊員が駆けつけてくると、涙と鼻水を流した大量のキャンパーたちを見て慌てる。

「大丈夫ですか!何が起きたんですか!」

「健康おにぎりを食べました!」みんなが口々に答える。

「健康おにぎり?」救急隊員が困惑する。

鈴木が立ち上がり、軍人らしい敬礼をする。

「報告いたします!こちらの緑色の物体は、健康効果抜群の兵器級おにぎりであります!」

「兵器級って…」救急隊員がさらに困惑する。

「でも体調は良いんです!」中年女性が涙を拭きながら証言する。

「目が覚めました!」若い男性が親指を立てる。

「便秘が治りそうです!」子供が無邪気に報告する。

救急隊員たちがおにぎりを見て、顔を青くする。

「これ…本当に食べ物ですか?」

「立派な健康食品です!」石川が胸を張る。

「でも見た目が…」

「見た目で判断しちゃダメですよ!中身が大事なんです!」千葉が力説する。

「食べてみませんか?」石川がおにぎりを差し出す。

「いえいえいえいえ!業務中ですので!」救急隊員が慌てて逃げる。

結局、誰も重篤な症状はなく、むしろみんな「体調が良くなった」と口々に言うので、救急隊員たちは困惑しながら帰っていった。

夕方、キャンプ場は不思議な一体感に包まれていた。みんな涙と鼻水は止まったが、なぜか爽快感に満ちている。

「いやー、今日もグレートなキャンプだったなあ!」石川が満足そうに焚き火を見つめる。

「はい!おにぎり名人さんにも認定していただけましたし!」千葉が嬉しそうに相槌を打つ。

「健康兵器として認定されただけよ…」富山が小声で突っ込む。

鈴木が石川たちの前に現れる。背筋をピンと伸ばし、軍人らしい歩き方で近づいてくる。

「石川君、千葉君」

二人が振り返る。

「君たちの健康おにぎりは確かに効果的でした。しかし…」

鈴木が厳格な表情で続ける。

「次回作るときは、事前に周囲への告知をお願いします。軍隊でも、化学兵器を使用する際は事前通告が必要です」

「化学兵器って…」富山がさらに突っ込む。

「はい!次回は『特製激辛カレー納豆おにぎり』を作って、カレー名人を唸らせましょう!」石川が目を輝かせる。

「「やめてええええええ!」」

鈴木、富山、管理人さん、そして周りのキャンパーたちの声がハモる。

「あ、それいいですね!今度は激辛スパイスを200種類ぐらい入れて、納豆も10パック使って…」千葉が興奮して提案する。

鈴木が軍人らしく直立不動の姿勢で宣言する。

「それは…軍事演習レベルの危険度です!」

キャンプ場の片隅で、管理人さんが他のキャンプ場の管理人仲間に緊急連絡を入れていた。

「もしもし、田中さん?石川っていう危険すぎるキャンパーがそっちに向かうかもしれません。特徴は異常にハイテンションで、食べ物で人を健康にしながら苦しめます…おにぎり名人の鈴木さんですら『兵器級』と認定するほどです…」

星空の下、みんなが涙の跡を拭きながらも、なぜか爽やかな笑い声を上げていた。そして明日もまた、どこかのキャンプ場で新たな「健康兵器」の伝説が生まれることだろう…

(※翌朝、地元新聞に「謎の健康食品でキャンプ場が涙の海に、しかし全員体調改善」という奇妙な記事が載ったが、石川は「俺たちが健康業界に革命を起こした!」と喜んでいた)

おわり

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『俺達のグレートなキャンプ110 特製「にんにくワサビおにぎり」でおにぎり名人を唸らせよ』 海山純平 @umiyama117

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